植物刺繍と季節のお話 第12話(前編)|早春色のピンクッション

刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第12話は、早春色のピンクッションのお話です。

撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス

明るい3月の朝の空。今朝は、昨夜降った雨のせいで湿り気を含んだ風が暖かい空気を運んできてくれました。

 

春は焦らし上手で、なかなかやって来ない

三寒四温とはよく言ったもので、暖かい日が続き、「もうすっかり春だなあ」などと気を緩めていたら、数日後には真冬のような寒さに逆戻り。春は焦らし上手で、なかなかすんなりとやって来てくれません。こんな日が続くからこそ、ますます春爛漫の日を待ち焦がれる思いになるのでしょう。

まだまだ寒さは残りますが、久しぶりに足を運んだ公園では満開のオオシマザクラが迎えてくれました。

ソメイヨシノなどの王道をいく桜とは違って派手さはないものの、緑の葉とともに咲く白い花は清々しい美しさです。ほのかな品のある香りを愉しませてくれる梅の花は満開の時を迎えていました。

穏やかな早春の陽を受けて、光の粒のように輝いている雪柳の葉。

立ち枯れたように見える紫陽花の枝からはみずみずしい若芽が・・・。去年の花の、枯れゆく様を残しながら、緑の芽が萌え出す様子は、何だか生命の迫力を感じます。

散歩の帰り道、沿道の植え込みでは八重咲きの椿が花盛りでした。上品なピンク色の椿は貴婦人のような美人顔で、英語でカメリアと言いたくなってしまいます。

 

たくさんの生地に囲まれて興奮した思い出

さて3月は何をつくりましょう。
アイデアがまとまらないときは、まず使いたい色の生地を引っ張り出して、触ってみることから始めます。

シャリ感のあるリネンの感触を確かめ、味わいのある色を眺めているだけで楽しい気分になります。そんな時、やはり私は生地が好きだなあ・・・と再確認するような思いになるのです。

幼い頃、母に連れられて初めて生地屋さんに行ったときのこと。少し薄暗い店内の棚には反物になってきれいに巻かれたたくさんの生地がびっしりと詰まっていました。さらに真ん中に置かれた大きな台にも平積みになった反物がたくさん。

色とりどりのそれらを見て、何だかやけに興奮したことを覚えています。針を持ったこともなく、何かつくれるわけでもないのに、その反物が欲しくてたまらなくなりました。(もちろん買ってはもらえません。)

 

リカちゃん人形のドレスになったレース

その後、母のタンスにきれいなレースのリボンを見つけた時も同じように興奮しました。なんて細かくてきれいなんだろう・・・。

しばらく触って楽しんでいましたが、ふと「これをリカちゃん(人形)の洋服にしたらかわいいのではないか?」とひらめき、おもちゃ箱のリカちゃんを取り出して来て巻きつけてみたら・・・「なんてステキ!」

我ながらグッドアイデアだと自画自賛しながら、もっと洋服らしくなるようにそのレースをハサミで切って見よう見まねで縫ってスカートにし、ブラウス用にも切って斜めに巻きつけて縫い付け・・・子供ながらに一生懸命作って、素晴らしくゴージャスなリカちゃんができ上がりました。

嬉しくなって褒めてもらおうと母に見せに言ったら・・・期待に反して母は怒りました・・・。大切にしていたレースを切り刻まれたのですから当然です。けれどあのときの創作意欲にも少しくらい目を向けて欲しかったなあ・・・と勝手な言い分を今更ながらに思ったりします。

 

気持ちが乗らなかった家庭科の洋裁

そんな私でしたが学校で習う家庭科はまるきり苦手でした。

小学校高学年の時の運針。白い晒しにあらかじめ「なみ縫い」とか「本返し縫い」などと書かれてあり、点線の上をその通りに縫っていく。全く面白くないのです。

中学に入り、今度はミシンを使って割烹着を縫う、という課題がありました。今思えば、袖付けとか裾縫いとかボタンホールとか、洋裁のいろんな技術を学ぶための「割烹着」だったと思うのですが、当時の私はこれが苦痛でした。何しろ「割烹着」なんて欲しくも着たくもないものを何故作らねばいけないのか・・・。気持ちが乗らないことは真面目に取り組むことができず、いい加減に作った結果、家庭科の先生には「こんな雑な作り方、見たことがない」と呆れられる始末でした。

一生懸命教えてくださった先生には、今思うと本当に申し訳なく思います。お会いできるならば謝りたい。けれど、そんな私が、大人になって自ら洋裁を習いに行き、果ては刺繍を仕事にしているなんて、あのときの先生は想像もしなかったでしょう。

 

生地屋さんでの興奮した気持ちが今につながって

人生とは不思議なものですが、全てはあの生地屋さんに行ったときの訳のわからない興奮する気持ちから始まっているような気がします。

針仕事は今や私の生活に切っても切れないものとなり、大いに楽しませてもらい、助けられてきました。そんな針仕事に敬意と感謝を込めて、今月はピンクッションを作ることにします。まだ春浅い空気をまとったような淡い色のリネンと糸で仕上げたら、きっとステキに仕上がるだろうと想像しながら・・・。

 

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