植物刺繍と季節のお話 第11話(前編)|空想植物の小さなバッグ

刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第11話は、空想植物を刺繍した小さなバッグのお話です。

撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス

朝起きて、窓の方を見ると、どんよりとした曇り空。
昨夜の雨で、水滴がいっぱいついたサッシを開けると、身が縮むほど冷たい風が吹き込んできました。

 

冬の公園はモノクロームの世界

2月は1年のうちでも一番寒い季節。
曇天の日の公園の木々は、色を失って、まるでモノクロームの世界です。

固く閉ざした沈丁花の蕾も、寒風にじっと耐えているように見えました。

どちらかというと、暑さが苦手な私は、寒さには強い方なのですが、寒くて雨降り、もしくは曇り空、という日は、やはり気持ちが沈みがちです。

やらなければいけないことが山盛りにあっても、なんとなく気持ちも乗らず、ぼんやりとしてしまい、はかどらない。こんな日は、できれば一日中ソファの上でゴロゴロして過ごしたいところですが、当然そうはいきません。重い体を引きずりながら、今日も作業机の前に座っています。

 

「心の力」で新しいものを生み出す

東京の冬の寒さや悪天候なんて、北国のそれに比べたら、本当に大したことないのでしょう。もっと過酷な状況の中でも、たくましく生きる人々は、すごいなあと素直に思います。

優れた手工芸が有名な北欧の国々では、真冬には「極夜」と呼ばれる太陽がほとんど昇らない時期があるという。そんな暗く冷たい季節を、少しでも明るく過ごすために、手工芸が発達したのだというのです。あの鮮やかな色使いや、素朴だけれども洗練されたデザインは、そんな中から生まれたのだなあと感心する次第です。

厳しい状況の中でも、心を明るく保って、新しいものを生み出す。これは、人間ならではの心の素晴らしさではないでしょうか?「心の力」とでもいうべき、想像力というか、空想力というか。ところが、忙しい現実生活が続くと、こんな心の力をつい忘れがちになってしまうように思います。

 

大好きだった「読み聞かせ」の時間

以前、息子が小学生の頃、本の読み聞かせのボランティアに参加していました。

朝の始業前の15分間、子ども達の前で絵本や童話を読むのですが、私はこの時間が大好きでした。

お話が始まると、騒いでいた子も、落ち着きのない子も、すっと耳をすましてくれます。そうして読み進むうちにどんどんお話の世界に入ってくるのです。ゾウが買い物に行ったり、ワニが床屋に来たり・・・と現実ではあり得ない設定も、子ども達はいとも簡単にお話の世界に飛び込んで、その世界を生き生きと旅している様子が、表情から伝わってきます。

私が好きな絵本『よあけ』を1年生のクラスで読み聞かせたときには、湖に太陽が昇り、山が照らしだされるシーンで「わあ」という歓声が上がりました。

絵本の絵にとどまらず、子ども達の前には大きな太陽が昇っていたのかも知れません。

この読み聞かせから帰る道すがらは、いつも心がホカホカに温まっていました。そうして、何かから解放されたような、自由な気持ちになったものです。

 

子どもの心で描く「空想植物」

あの子ども達の心の力、もうすっかり大人になって心が凝り固まってしまった私ですが、一瞬でも取り戻せたらなあと思うのです。それこそが、どんなときにも明るく豊かに生きることに繋がる気がして・・・。

今月はそんな事を思い、「空想植物」の刺繍をすることにしました。小さな子どもが「ガッシャーン」とか「シュッシュ」とか言いながら無心で絵を描いている、そんな思いで図案を描きましたが、まだまだ子どもには敵わないような気がします。

 

 

 

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