川本毅さん(後編)|苔のテラリウムはもっとも手軽なインテリアグリーン。植物と暮らすことがもっと身近に。

川本毅さん(後編)|苔のテラリウムはもっとも手軽なインテリアグリーン。植物と暮らすことがもっと身近に。

「都会の暮らしにも植物を」をモットーに幅広く活動する「Feel The Garden」代表の川本毅さん。彼が生み出す苔のテラリウムは、見て癒されるだけでなく、グリーン好き、手づくり好きなら自分でつくってみたくなるワクワクも。前編では、川本さんがテラリウムを手がけるようになったきっかけや、その魅力をお伺いしました。後編では、初の著書『光と苔のテラリウム』のエピソードや今後の活動についてのインタビューです。

撮影:天野憲仁(日本文芸社)  取材・文:酒井絢子

余すところなく学べる、苔のテラリウムの指南書づくり

川本さんにとって初めての著書『光と苔のテラリウム』は、テラリウムのつくり方・育て方はもちろん、苔を始めとした植物や用土にまつわる解説、容器の選び方、そしてテラリウムに最適な光についての分析と紹介など、苔のテラリウムの教科書とも言える内容の濃い本。これ1冊が手元にあれば、すぐにでも本格的なテラリウムづくりを始めることができそうです。

▲テラリウム専門店Terrariumsには、さまざまなデザインの完成品がずらりと並ぶ。それぞれの違いを見比べながら眺めるだけでも楽しい。

▲慣れた手つきでテラリウム制作をする川本さん。フラスコは開口部が狭いため制作の難易度は高いが、首の長さがあるため湿度が保たれやすいのだそう。

本を出すことが決まってから、本の制作にかけた期間はたった2ヶ月。そんな短期間で仕上げたと聞くとますます驚いてしまう内容のボリュームです。

▲30cmほどの長いピンセットは、だいたいの瓶に対応可能。長時間作業することもあるので、軽いものがおすすめだそう。

▲ホソバオキナゴケの位置を微調整しているところ。非常に繊細な作業。

「時間が限られていたことがとにかく大変でしたね。『苔のテラリウムに必要な光』の解説ページ以外は、すべて自分で文章を書きました。光については植物を育てるうえで大事なポイントなので、私が企画している植物イベントに出ていただいている照明器具のメーカーさんや植物研究家の方にくわしく書いていただきました」

▲テラリウムを照らしているのは、GENTOS社「そだつライト」。本来の自然に近い光で鑑賞することができる。

植物に光は欠かせないものだからこそ、LED照明が発達してきている現代はインテリアグリーンという分野の転換期だと川本さんは言います。

「たとえば植物育成ライトをタイマーで管理できるようなテラリウムをインテリアアイテムとして取り入れることができれば、家の中に照明を兼ねたメンテナンスフリーの植物園ができちゃう。テラリウムと光・照明をセットにした事業には、すごくビジネスチャンスがあると感じています」

▲容器は、LED照明器具が装着されたしずく型の「Mosslight」(株式会社イースプランニング)。テラリウムを、インテリア照明としても楽しむことができる。

 

あくまでも「インテリアグリーン」を軸として

苔のテラリウム以外でハマっているものを尋ねると、「シダ植物が自分の中で盛り上がっている」と川本さん。

「シダをインテリアグリーンに取り込もうっていうのを、いろいろと研究しているんです。もちろんテラリウムに利用するのもアリですが、テラリウム以外のやり方もあるかなと思っていて。造形がかっこいいだけじゃなくて、薄暗いところでも生きるし、土にたくさん肥料分を入れる必要がないからコンパクトな鉢でも大丈夫。インテリアとしてハンギングできるから、部屋の中で面積も取りませんし・・・」

▲小ぶりなシダ植物、観葉植物、水草など、テラリウムで育てられるのを待っているいろいろな植物たち。

上からシダをハンギングして、棚にはテラリウムを、というような飾り方もいい、とワクワクが止まらない様子。ただ、やはり軸にあるのは「インテリアグリーン」をつくりたいという熱い思い。

▲観葉植物のフィットニア、シダ植物のトキワシノブ、クッションモス(セラギネラ)。

Feel The Gardenで開催されているワークショップに参加する人は、やはり植物が好き。ただ、インテリアにグリーンを取り込みたいと考えているものの「枯らしちゃうから敬遠している」「うまく育てられない」という人も多いのだそう。

もちろんテラリウムはインテリアにぴったりの手法ではありますが、川本さんは「そういう方にテラリウムだけをやり続けてもらいたいとは思っていない」と言い、ほかのワークショップや教室の紹介も積極的です。

「テラリウムが好きな人も、ほかにもエアプランツや多肉植物が好きかもしれないし、盆栽が好きかもしれないし。いろんな作家さんやクリエイターさんのワークショップを私が主催したりすることもやっています」

▲結露しているガラス面。結露があるということはテラリウム内の水蒸気が飽和をしていることを意味し、いずれ植物が吸収し自然と収まるため、特別な手入れは必要ない。

 

ワークショップは新しいコミュニティの場

この春にはFeel The Gardenの事務所兼アトリエを増床し、新たなワークショップスペースとしてさまざまな企画を練っていたそう。

しかし、コロナ禍で状況が一変。多くの人を呼ぶことは難しくなったため、テラリウムづくりのワークショップも回数や人数を減らし、オンラインと同時開催するほか、インスタグラムでのライブ配信、YouTubeでの説明動画配信など、さまざまなやり方で需要に応えています。

▲アトリエにある棚には、さまざまな形のガラス瓶と、ステンレス製のボウルやバット、スポイトなどが並び、さながら実験室のよう。

「(Web会議サービスの)zoomを使ったオンラインワークショップと、リアルのワークショップを同時に開催するのは、意外にも良い点がたくさんあるということがわかりました。テーブルに集う人たちとzoomの画面の向こうの人たちが、コミニュケーションできるんですよね。オンラインで参加している人が住む地方の話題で盛り上がったり、画面越しだと質問しづらい部分をリアル参加の人が実物を手に質問したり。シーンと静まり返りそうな時間もオンラインの人がおしゃべりを始めて盛り上がることも。相互に補完しあっていて、すごくいいなと思っています」

また、インスタライブでは、受講者同士がコメントで会話をしたり、川本さんもコメントを読むことで見てくれている人のことを知ることができたり。一方通行ではない、新しいコミュニティが生まれていると言います。

▲ヤシの木にも似た、コウヤノマンネングサ。苔の中では高さやボリュームがあるので、ガラス瓶の中で高い木のように見せることができる。

▲種類別に保存された砂。左は日光砂、右は富士砂。砂は菌が増えることのない、不純物を含まない素材が、テラリウムに適している。

趣味から発展し、事業の一環として依頼を受けて始めたワークショップですが、今では植物を扱うワークショップのコンサルティング業務も手がけるように。

「もともと場を設けたり、コミュニティをつくったりすることは好きだった」という川本さんは、さらに規模を広くFeel The Gardenのワークショップを展開していきたいと意気込みます。

「若い人たちも気軽に参加できて、ワークショップに通うことそのものが魅力だと感じてもらえる場所を、都内各地につくりたいんです。定期的に学ぶことでおしゃれなインテリアグリーンを生活に取り入れることができるような」

▲土、石、砂の上に苔を配置した制作途中のテラリウム。テラリウムづくりの作業は、途中で中断しても問題ないそう。

 

不思議な繋がりに導かれるように

ワークショップ運営も、テラリウム関連の制作・販売も、もっともっと広げていきたいという川本さん。海外進出も視野に入れ、シンガポールや台湾に出店したいと意気込みます。

「Feel The Gardenの名前を、ひとつのメーカーとして掲げていきたいんです。私自身が作家として活動するというよりは、ずっと大きな枠組みで考えています」

植物関連のクリエイターや企業と横のつながりを多く持ち、業界全体の盛り上がりも目指している川本さんですが、最近になってひょんなことからご自身のルーツを知り、ますます意思を強く持つようになったそう。

「自分の家系を何代も遡ると、日本三大盆栽屋と呼ばれていた川本明樹園にたどり着くんです。テラリウムの仕事を始めて知り合った盆栽教室を営むクリエイターさんに、『川本さんってあの明樹園の川本さん?』って聞かれて、戸籍を辿ってみたんですよ。そうしたら本当に繋がっていて」

それをきっかけに、明樹園を営む盆栽家であり、盆栽栽景教室も主宰していた川本敏雄さんの本を手に入れた川本さんは、本をめくってさらなる事実に驚きを隠せなかったそう。

▲川本さん所蔵の『木と石のデザイン』『続・木と石のデザイン』『盆栽と栽景』。いずれも川本敏雄氏の著作。

「盆栽に牛の人形を置いた作品があるんですよ! 私がテラリウムを始めた頃からつくっている『牧場の風景』っていう作品には、牛のフィギュアを置いていて。全くの偶然なんですけど、同じことをしていて・・・本当に驚きましたね」

本が出版されたのは50年以上も前。その不思議な繋がりに、川本さんも「私にはやるべきことがあったんだな、導かれているんだなと」

▲付箋が貼ってあるのは、牛の人形が配された盆栽の写真のページ。写真下のページには、植物の配置が詳細に図解されている。

そんなファミリーヒストリーも後押ししてか、ますます活動の域を広げている川本さん。最近では趣味がテラリウムと言う人も増えてきて、「都会の暮らしにグリーンを取り込む」という努力目標が少しずつ実現されてきていると感じているそう。

▲テラリウムには、見えやすさだけでなく植物の光合成のためにも透明度が高く無色のガラスが適している。フィギュアの農婦が手入れをしているのは、ヒノキゴケ。

かつて園芸があくまでも趣味だったという頃には、「自分は植物の魅力や育てることの喜びを知っていたけれど、周りにはそれを共有できる人は多くなかった」と言う川本さん。今では、苔のテラリウムをはじめとした園芸の面白さやインテリア性を広く伝えるために先陣を切り、そのスピードを緩めることなく進んでいます。