植物刺繍と季節のお話 第7話(前編)| 草花刺繍のブックカバー

刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第7話のテーマは読書。前編ではブックカバー、後編ではしおりが登場します。

撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス

 

自然の中で過ごすことは心の充電

先日、久しぶりにちょっと足を伸ばして、郊外の大きな公園に行きました。

時折聞こえるツクツクボウシの声に夏の名残が少し、けれども季節は着実に移り変わり始めていました。咲き始めた曼珠沙華、そしてキバナコスモスの花畑。赤とんぼにも久しぶりに出会いました。

こうして、自然の中でゆったりと1日を過ごすことは、大切な時間だと思います。

忙しい現代、毎日なすべきことばかりに追われて、馬車馬のように前ばかり向いて走ってしまう。そうするといつの間にか心はカラカラになっていることに気づくのです。

「人はパンのみにて生くるにあらず」、自然の中で過ごすことは心の充電でもあります。

 

秋の「読書週間」に思うこと

10月に入って、一番に思い浮かぶのは「読書週間」。

10月の終わりから11月の半ばまでの2週間をこう呼ぶそうですが、小学生の頃、この時期になるといつも校内に「読書週間」と大きく書かれたポスターが貼られていました。私の誕生日を含むこの週間を、ただそれだけの理由ですが、なんとなく親しみを感じていました。確かに気候も心地よく、過ごしやすいこの時期、じっくり本を読みたくなるものです。

大して読書家でもなかった私ですが、それでも夢中になって読んだ本の思い出はいくつかあります。

中学生の頃は武者小路実篤の小説を好んで読みました。『友情』を読んで、登場人物の複雑な心情の描写に、時代が違っても考えることは私たちと同じだなあなどと、時間を超えて共感する不思議さを感じました。

星新一のSF小説にハマったこともあります。ショートショートと呼ばれる短編集は、時にブラックユーモア、時にホラーのような怖さもあり、短い文章の中の、現実とは別の世界にグイグイと引き込まれました。

映画を観て、読んでみたくなった本に『カラーパープル』があります。黒人差別の問題は教科書では習いましたが、小説を通して現実を知り、衝撃を受けました。とともに過酷な運命にも負けない不屈の魂を持つ主人公の姿に深く感動しました。

本というのは不思議です。
紙に文字が印刷してあるだけ。けれどページをめくるごとに、笑ったり、泣いたり、感動したり、新しい知識を得たり、そして深く考えさせられたり。そうして心に残ったものは、いつの間にか自分の血肉になっているような気がします。

最近は仕事の忙しさにかまけて、じっくり一冊の本を読むことが少なくなりました。少し時間があっても、ぼんやりスマホを眺めて時間を過ごしてしまう。これを書きながら、反省・・・というか、もったいないというか。この秋はぜひ読書に取り組もう。

 

秋の草花を刺繍したブックカバー

ということで気持ちを盛り上げるためにも、今月はブックカバーをつくりました。まずは秋らしい草花を刺しゅう。

刺繍が終わると仕立てに入ります。このブックカバー、仕立てにはちょっとしたコツがあります。

4年ほど前にある出版社から依頼を受けて、オリジナルのブックカバーをつくらせていただいたことがありました。バッグなどの袋物と違って、ブックカバーというのは、本をカバーしたときに美しく収まるようにつくらなければいけない。それで、いくつも試作を繰り返し、コツを習得していきました。

まず裏地ですが、表地よりも縦横3ミリほど小さめに裁断します。そうして表地と縫い合わせるときに、この裏地を少し引っ張るようにして縫っていくのです。

この引っ張り加減が、仕上がりに影響します。言葉では説明できない絶妙な力加減で、ぴったりと表裏合わさったときは気持ちが良いものです。こうして丁寧に縫い合わせると、本をカバーした時にもたつかず、ぴったりと収まります。

お気に入りの本に刺繍のブックカバーをかけて、この秋は読書の旅に出かけたいと思います。

 

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