更新日: 2020/11/19
刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでのエッセイです。第8話のテーマは秋の葉。前編では、マカベさんの息子さんがまだ小さかったときのエピソードを綴ってくれました。後編ではいよいよ秋の葉のリースの作品ができ上がります。
撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス
寒さに向かう季節となり、我が家のベランダの植物たちも、ほとんどが休眠時期を迎えるのか、夏のような元気さが失せつつあります。けれども時々咲き残りの花々がポツンポツンと花を咲かせることがあるのです。盛りを過ぎたその小さな花々を、慈しむように摘んで小さな水差しに活けました。
花屋さんで売られている、完璧に育てられた園芸種の花々も美しいけれど、こんな風に自然に咲いた植物は、形は不格好でも素朴な美しさがあり、何とも愛おしいものです。
大きなイベント出展を前にし、制作漬けの日々を送っています。以前も少し書きましたが、新しい作品を作るとき、すんなりイメージが湧くこともありますが、大体が試行錯誤の連続です。
イメージがなかなか湧かないときは、描いても描いてもよい図案ができません。どうもバランスが悪い、なんかこのモチーフではない・・・と考えるうちにどんどん視野が狭くなり、ますます頭の中は迷宮入り。イメージが湧くまで待つ・・・ということができればよいのですが、仕事なので常にタイムリミットとの戦いです。
焦るあまり、刺繍し始めたらよくなるかも・・・などと甘い考えを起こし、納得しない図案に手をつけ始めるとやはりダメで、数時間を徒労に費やしたことに後悔するのです。先日もこんな繰り返しで、ため息混じりに過ごしていました。
夕方、洗濯物を取り込むためにベランダに出て、ふと空を見上げると、何とも見事なうろこ雲。こんな空は久しぶりに見ました。
秋の真っ青な空にふんわりと小さく千切れた雲たちが、どこまでも続いています。一つ一つが違う形なのに規則的な模様のように並んでいる。いつもの空と違って、それはどこかユーモラスで、思わず私の口角も上がっているのに気がつきました。
「もう少し肩の力を抜いていいんじゃない?」
そんな風に励ましの言葉をかけられたような、ほっとしたような気持ちになったのです。
作業机の前の窓からも空が見えます。
小さな部屋の小さな窓から見える空ですが、この空は宇宙へと無限に広がっている。宇宙の中の銀河系の中の太陽系の中の地球の中の日本の中の、小さな私。とかく近視眼的になりやすい私は時々空を見上げて、心を大きくして励まされながら生きていこう・・・。空を見上げながらもう一度新たな力が湧いてきました。
さて、前編では、秋の美しい葉をスケッチして作品の構想を練っているところまでお話ししました。
スケッチするうちに、この葉の形や色を生かして、リースの図案にしようを思い立ちました。単なる丸では面白くないので、楕円に・・・。そういえば楕円型の刺繍枠があったから、それにはめてみよう。こんな風にして作品が決まりました。
この刺繍枠、実際に刺繍するときに使うのは、10㎝〜12㎝の手に収まる小さなものなのですが、ほかにも色々な大きさ、形があって楽しいもので、私も新しい形のものを見つけるとつい買ってしまいます。作品を額装やパネルにせずともこの刺繍枠を使って簡単に飾ることもできます。
図案は、まず枠の形に沿ってガイドラインを描き、先日スケッチした秋の葉を配置していきます。間には椎の実や、色のバランスを考えて他の色鮮やかな実も・・・。
葉はアウトラインステッチで刺していったので、色々なモチーフを詰め込んだ割には軽やかな仕上がりになりました。
楕円の刺繍枠にはめて、そっと部屋の片隅に飾りました。晩秋のほんの短い美しい季節を、縫いとめるようにして作った秋の葉のリース。部屋にいながらも、自然の移ろいに心馳せることができますように。
マカベアリス
刺繍作家。手芸誌への作品提供、個展の開催、企画展への参加、ショップでの委託販売などで活動中。著書に『野のはなとちいさなとり』(ミルトス)、『植物刺繍手帖』(日本ヴォーグ社)、『刺繍物語 自然界の贈りもの』(主婦と生活社)。共著に『彩る 装う 花刺繍』(日本文芸社)ほか。季節の流れの中に感じる、小さな感動や喜びをかたちにしていけたら…と 日々針を動かしている。
https://makabealice.jimdo.com/
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