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植物刺繍と季節のお話 第10話(後編)| 冬の花の巾着ポーチ

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刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第10話の前編では、マカベさんが出会った装飾フレームに合わせた白い花の刺繍をご紹介しました。後編は同じ図案を使った巾着ポーチのお話です。

撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス

真冬の朝は清らかに明けていきます。

ピリッとした冷たさの澄みきった空気。ゆっくりと陽が昇り明るくなる、その様子は何度見ても清々しい光景です。

 

寒い季節の楽しみ

太陽が昇りきった頃に聞こえてくる、「ツピー ツピー」という明るい声。シジュウカラです。

いつもこの時間、電柱のてっぺんに留まり、あたりを見下ろしながらよく通る声で鳴いているのです。そこからの景色はきっと気持ちいいのだろうなあ。

冬の間は虫が採れないので、うちのベランダによくやってくるヒヨドリ。

ホワホワの冬毛と赤いほっぺが可愛いのですが、「ギョエー」という鳴き声がけたたましく、でもそこがユーモラスでかわいくもあります。

買い物途中に通りかかった公園の冬木立。

春には目を楽しませてくれる、桜の木の細かい枝先には、今きっと冬芽が準備されているのでしょう。

寒い季節にも楽しみはたくさんあります。清らかで澄んだ、そして次の季節への静かな期待を感じるような冬の美しさ。今日もそれを感じられることは本当に嬉しいなあと思います。

 

なぜ絵でなく、刺繍なのか

先日、ある雑誌の取材を受けた際、「自然や植物を表現するのに、なぜ絵でなく刺繍なのですか?」と質問を受けました。

「そういえばなぜなのだろう・・・」自分でも改めて考えてみました。もちろん私には絵のスキルはありませんし、表現力もありません。刺繍を続けているうちに植物を表現したくなった・・・という経緯もあります。けれどそれだけでは無いような気がしてきました。

何より糸と布の温かみ。紡がれて染められてと何工程も経て出来上がってきたその風合い。

それを、ひと針ひと針時間をかけて刺していく作業。そうして木の葉や草花、鳥たちが膨らみを帯びて浮かび上がってくる様子は、大げさですが命が吹き込まれているように感じるのです。

命あるものを、命あるもののように表現する・・・ということが、私の目指したいことなのかもしれない・・・とその時そう思いました。

自然の美しさを刺繍で表現していくこと。まだまだ思うようにいかず、技術や表現力の足りなさも感じますが、布や糸の力を借りながらひと針ひと針でも前に進んでいけたら・・・と思っています。

 

白い花の巾着ポーチ

さて、前回は装飾的な額に入れた白い花の刺繍を作りました。この額は2つとないものなので、今回はこの図案を使って小さな巾着ポーチを作ることにしました。

同じ図案をいろいろなところに刺せることは、刺繍の楽しさの1つでもあります。布であればどこへでも刺すことができますし、色合いやアイテムを考えることも楽しいものです。

同じ図案でも、複数個並べてみたり、少し小さくして、テキスタイルのように広い範囲に刺したり・・・。

1つの図案でも想像力を膨らませれば、可能性は無限に広がっていきます。今回は額の作品と色を反転させて、白地に水色の糸を選びました。

出来上がって前回の作品と並べてみると、同じ図案なのに、お澄まし顔の額とは違う風情で面白いものです。

1つの図案でもいろいろなものに刺したり、展開させたりしてぜひ楽しんでみてください。

 

 

 

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