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植物刺繍と季節のお話 第11話(後編)| 空想植物の小さなバッグ

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刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第11話の前編では、絵本の読み聞かせを通じて子どもの心の力を感じたこと、そして、そこから空想植物の刺繍を着想したことをお話ししました。後編ではその空想植物を刺繍した小さなバッグができ上がります。

撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス

先週思いついた「空想植物」の図案を、小さなバッグにするべく描き始めました。1つの茎から、いろいろな花が咲き葉っぱが生えたら楽しいなあ・・・と思いながら。

楽しい気持ちで描き始めたのに、できてみると何だかバランスが悪い。葉っぱの大きさが違うとか、花のボリュームがもう一つとか、手直しを重ねて描き直し、4回目にようやく図案が完成しました。

 

創ることは既成概念を壊す作業

新しい図案をつくるときには、こんな逡巡を繰り返すことが多々あります。特に今までと違った新しいものを・・・と思うときは、何かを「創る」というよりも自分の中の既成概念を「壊す」作業のように感じます。

どこかで見たような、前につくったような・・・ともすれば心はそんな楽な方に傾きがちで、でもそれだと本当に面白くない・・・。頭をかかえて、うんうん唸りながらの作業になることもあります。そんなに苦しんで作っても、未だ100%満足のいくものはできていないのですから、創るということは、果てしないなあ・・・と感じることもありますが。

 

袋物に仕立てるときの裏地の話

刺繍したものをアイテムに仕上げるとき、袋物にすることが多いと思いますが、そのときに大切なのが裏地です。表の刺繍が仕上がったら、裏もきれいに・・・といきたいところです。

以前ブックカバーを仕立てる際(第7話・前編)にも少し書きましたが、表地と裏地を同じ大きさに裁断してしまうと、どうしても裏側がもたついてしまいます。それで裏地は周囲を1㎜〜2㎜ほど控えて裁断するのですが、これは表布がざっくりした麻で、裏がブロードなど目の詰まった綿の場合。

使う生地によって微妙に控える分量は変わってきます。・・・というと、そんなややこしい事・・・と敬遠されるかもしれませんが。たとえば同じ麻でも、使っている糸の種類や太さ、織り方などによって、厚さや布の伸び方、滑り具合などが違います。

 

生地と対話するような時間を

何かに仕立てる前に、手で撫でたり、少し引っ張ってみたり、生地と対話するような時間をつくるのです。

そうすると、「繊維が少し硬いから、控える分量は少なめでいいな」とか、「薄くてよく伸びるからぴったり表に寄り添うように、多めに控えよう」などということがわかったりします。もちろん失敗を繰り返すこともありますが、そうして経験して手が覚えたことは、必ず身について応用も利くようになるものです。

余談ですが、私は料理をする際も材料と対話するような気持ちになることがあります。

スーパーで買ってきた人参を前に、「どうしたら美味しくなる?」と聞いてみるのです。

冬の寒い時期にじっくり育った皮が厚めの赤い人参を見つめていると、「焼いたらもっと甘くなるはず」と教えてくれます。厚手の鍋に入れてオリーブオイルを垂らし、蓋をしてゆっくりと蒸し煮するように焼いたら、甘くてホクホクして、ちょっと塩を振るだけでご馳走の一品になりました。

冷蔵庫の中で忘れられ、少し元気をなくしていたリンゴはそのまま食べるにはちょっと・・・。しんなりとした皮を見ていたら、水分が抜けた分、他の味が染み込むかも・・・と閃きました。そこでフライパンにバターと砂糖を少し焦がし気味にして、切ったリンゴを入れ、キャラメル煮にしてみたら、リンゴの酸味が合間って美味しいおやつができました。

 

目の前にある材料の質感や手触りを大切にする

インターネットで検索すれば、布アイテムのつくり方も料理のレシピもいくらでも出てくる時代ですが、それはあくまでも参考までに・・・。今、目の前にある材料の状態や質感や手触り・・・といったものを大切にして、話しかけるような気持ちでつくりたいなあと思います。

ふと窓を見ると、カーテンに射す陽の光が明るくなっていることに気づきました。

外に出かけると、冷たい風は吹くものの、太陽は以前よりも確実に高くなっています。

「春は光からやってくる」そうで、冷たい季節から春へと移り変わる日も、そう遠くなさそうです。

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