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第7回 待ち針とクリップ(前編)|長さ28mmの待ち針がミシンにも手縫いにも小物づくりにもちょうどいいです。

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手芸や洋裁の基礎本にはあまり詳しく載っていない・・・お裁縫にまつわるあれこれを、針仕事研究家の安田由美子さんが深掘り解説する「大人の家庭科」。今回は、しつけ以外の仮止めの道具、待ち針やクリップについてのお話です。

文:安田由美子(針仕事研究家 NEEDLEWORK LAB) 撮影:天野憲仁(日本文芸社)

洋裁で、仮縫いやミシンをかけるときに、縫い代つきパターンでない場合は待ち針を打ってから縫っていきます。

 

縫い針は「縫う」、待ち針は「打つ」

フランスのクロスステッチの本を見ることが多いのですが、洋裁小物などの図案によく出てくるのが、épingles(エパングル)とaiguille(エギユイユ)という言葉です。épinglesがピンのことで、aiguilleが縫い針。英語でも針というのは縫うものでneedleです。待ち針はpin。待ち針は針だけれど、「縫う」とは言わないで、「待ち針を打つ」「ピンを打つ」「待ち針で止める」と、「とめる」ことを指します。

 

待ち針の種類と選び方1 頭の素材と大きさ

 待ち針は目的別にいろいろ販売されています。
まず、頭の部分の素材を見ると、ガラス、プラスチック、針と同じ金属のものなどがあります。


▲左から:シルクピン、極細シルク用待ち針、赤白待ち針、パール待ち針、セル待ち針、編み物用待ち針

シルク用待ち針と赤白待ち針の頭の部分は耐熱性ガラスなので、アイロンをかけても大丈夫。頭部分がプラスチック製の待ち針は安価で可愛い色が揃っていますが、アイロンで溶けてしまいますので、注意が必要です。

次に頭の部分の形。小さくて丸いもの、大きめの丸いもの、平らなものなどがあります。シルクピンなどの頭はごくごく小さいです。頭の部分が大きいものは裁断や縫製の途中で目印が必要で目立たせたいときにはよいですが、ミシンがけの場合、ちょっとじゃまになります。立体裁断などですと、頭の玉の部分はないくらいの方がいいのでシルクピンなどを使います。和裁では布をたたむので、頭は平らなものがよいようです。

刺繍愛好家の間では、シルクピンにビーズを刺してキラキラしたオリジナルのピンをつくる方もいらっしゃいます。どちらかといえば実用的ではないものの、可愛くて、きれいなものをピンクッションに刺しておくのは楽しいものです。

待ち針の針先の形はとがったものがほとんどですが、編み物用だけは先が丸くなっています。


▲左から:パール待ち針、ビーズをつけたシルクピン、編み物用待ち針。

 

待ち針の種類と選び方2 長さと太さ

長さについては、私がいつも使っている洋裁用の待ち針、BUNKAの赤白待ち針は28㎜です。洋裁の場合、このぐらいの長さが、長すぎず短すぎず、ミシンにも手縫いにも小物づくりにもちょうどいいように思います。

セル待ち針は50㎜くらいです。長いので抜け落ちにくかったりして和裁などの手縫いにはいいですね。逆にミシンでは長く使いにくいこともあります。パッチワーク用の待ち針ですと、35㎜前後、アップリケ用の針は20~25㎜くらいです。用途に応じてちょっとずつ違いますね。


▲左から(数字は針の長さ):アップリケ用待ち針25㎜、赤白待ち針28㎜、パッチワーク用待ち針36㎜、セル待ち針50㎜。

太さについては、特に細いもので0.4㎜、0.45㎜、一般的なもので0.5㎜、0.55㎜、ちょっと太めですと0.6㎜、0.7㎜もあります。ディスプレイなどで布を止めるステンレスピンでは、0.8㎜というのもありますよ。細いものは薄手のシルクなども傷つけず、太いものは厚手のものを刺したときでも曲がりにくいです。どちらも目的に合わせて選びます。たとえば、長さが同じで太さが0.5㎜と0.55㎜のシルクピンが混じってしまった場合、見てもなかなか区別がつきません。一本ずつつまんでみると、違いがわかります。指先ってそのぐらいの違いはわかるようにできているんですね。


▲上から(数字は針の太さ):極細シルク用待針0.45㎜、赤白待ち針とシルクピンともに0.5㎜、シルクピン0.55㎜、ステンレスピン0.8㎜

 

まずは数えてから使い始める

待ち針はかならず数えてから使い始めます。最初に数えておくと、布に残ってしまったり、床に落ちているなどということが起きません。布につけたまま作業を中断させることもあります。私はピンクッションに刺す待ち針は赤10本、白10本といった具合に決めておき、作業前と後でチェックするようにしています。さらに、裁縫箱に赤10、白10と書いたシールも貼ってありますよ。ピンはやたらとたくさん打たないほうがいいので、ピンクッションに刺しておく数も多すぎないほうが管理しやすいです

 

曲がったり傷んだりしたらあきらめる

曲がった縫い針だとうまく縫えないから、取り替えますね。待ち針は使おうと思えば使えちゃうから、曲がったものを使い続ける方も見受けられますが、曲がった待ち針もやはり使いにくいのですよ。

曲がる理由はいろいろあると思います。一番多いと思うのは硬いところ、厚いものに無理矢理刺してしまうときでしょうか。これは、適材適所、太い待ち針やクリップに替えることで回避できます。また、布などを引き出すような動きでも力がかかって曲がってしまいます。力のかかる作業は先の尖った目打ちに任せましょう。

ほかに、うっかり待ち針をつけたままミシンをかけてしまって、曲がってしまうこともあります。表面に傷がついたり先がつぶれたりしているだけで、デリケートな生地を傷めてしまうこともあります。ちょっと曲がったくらいだと、もったいないなあと思って、金槌でたたいて直ることもありますが、基本的に、曲がった針、傷ついた針、錆びた針などはあきらめて新しいものに取り替えましょう。

 

針を処分するときはケースに入れて

 待ち針を処分するときは、小さなケースに入れて、自治体のゴミの出し方に従って処分しましょう。私はペンタイプの糊やボールペンの芯の替えが入っているケースを利用しています。取り替えて空になったケースをただ捨てるのではなく、捨てる前にもうひと働きしてもらっています。細くて小さな針がどこかに行ってしまうことなく保管できます。大きいものを一つ持つより、ピンクッションごとに小さい入れ物を一緒にしておくと、あとで、と思わずに捨てやすいですよ。

 

裁ちばさみやミシンを傷めないようにする

 待ち針の失敗で多いのは、裁断などの際、うっかりはさみを当ててしまうことです。型紙を待ち針でとめている場合や、柄合わせに待ち針で押さえているところを切る際などは特に気をつけましょう。待ち針に刃が当たってしまったはさみやロータリーカッターはそこの部分だけ切れなくなります。

ミシンをかけるのにどうしても待ち針を使う場合は、ミシンの時には手前ではずすようにします。シルクピンならそのまま縫ってしまうというのを聞くこともあるのですが、ピンの部分で縫い目が曲がってしまうこともあります。ミシン針やミシンを大事にする意味でもはずしたほうがよいでしょう。

うっかり、待ち針をつけたままミシンで縫ったことがありました。眼鏡を掛けていたからよかったのですが、折れたミシン針がメガネに当たったのです。今考えると怖いことです。

後編では、待ち針の打ち方、待ち針以外の止める用具、安全ピンやクリップについてお話します。

 

 

 

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