更新日: 2020/05/25
日常の延長に、ほっと落ち着ける場所があったらいい。スタイリング・フォトグラファー、村川麻衣さんの場合、それはこんな喫茶店。
撮影・文:村川麻衣
毎週月曜日の午前8時。大阪・本町にある喫茶店へ足を運ぶことを習慣にしていた時期がありました。
本町は梅田とミナミのちょうど真ん中にあるオフィス街。その場所を知っていなければ通り過ぎてしまいそうな、あるビルの奥にひっそりとその喫茶店はあります。
街が動きだす月曜日の雰囲気を浴びながら「おはようございます」と挨拶をして、モーニングセットを頼み、一週間の予定を立てるのです。時々友人も参加して、手帳を広げながら、「朝活」と言う名のおしゃべりタイム。毎週通ううちに「月曜日の女」と呼ばれるようになれたら・・・。そんな期待を抱きながら、いつしか私たちは「会議の人」と呼ばれるようになりました。
朝の喫茶店に流れる時間に背筋が伸び、仕事やプライベートや暮らしの細々とした予定を立てることで、その一週間はとても有意義なものになります。
お店の名前は「佛蘭弗 (フランドル)」。フランスの最北端にあるフランドル地方がお店の名前の由来と知ったのはごく最近のことです。この場所でちょうど20年を迎えたそう。
壁にはいくつもの絵や写真や言葉が飾られています。それもこのお店が好きな理由のひとつです。
写真にあるのはマスターの作詩作画の作品。思いのままに生きているマスター自身を表しているかのよう。
マスターとは近況報告から、昔の恋愛話、詩の話などいろんな話をします。ある日、井伏鱒二の「厄除け詩集」の中に好きな詩があるのだと見せてくれました。年期の入ったオレンジ色のカバーを開き、ページをぱらぱらとめくると、唐代の詩人、于武陵(うぶりょう)の「勧酒」という詩を井伏鱒二が訳したものでした。
「勧酒」 干武陵 (井伏鱒二訳)
勧酒金屈巵
満酌不須辞
花発多風雨
人生足別離
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
人生に別れはつきものだということ。言葉の選び方について、思いがけない学びがあったりもします。詩を書いていると名乗る前から、好きな詩や小説の話をしてくれたマスター。これも今となってはうれしい引き寄せだったのかもしれません。
後編では、人気の玉子サンドのことや佛蘭弗 (フランドル)の猫についてお話しようと思います。
村川麻衣
長崎県生まれ。紙ものなどを中心に扱うアンティークショップでの経験とお菓子やさんを運営する株式会社ネネンのクリエィティブディレクターとして広報・企画・ウェブディレクション・新ブランドの立ち上げ、ギャラリーのキュレーション等を手掛ける。2019年独立。現在は大阪を拠点に世界中を旅しながら、アンティークのバイイング、企画・ブランディング・コンサルティング・ディレクション・撮影などを行う。ROMANTIC LETTERSという屋号で“好き”をコレクション・販売している。
詩人「月森文(つきもりふみ)」としても活動中。
ホームページ:https://www.maimurakawa.com/
インスタグラム:@maii_mrkw
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