パリスタイルで愉しむ 花生活12か月 第17話 ダリア

フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第17話はダリアのお話です。

撮影:斎藤由美、石橋善子(ガラス器に活けたダリア)  文:斎藤由美

私が信州でフラワーアレンジメント教室を主宰していた90年代、ダリアは花持ちがよくないためか、切り花として流通しているのを見たことがありませんでした。地方だったからかもしれません。現在、日本では通年入手が可能と聞いています。秋田産「ナマハゲ」シリーズを始め、インパクトが強い名前とともに、艶やかな花姿は圧倒的な存在感を誇っています。

一方、フランスでダリアといえば「夏の庭に咲く花」。8月、ヴァカンスに出かけたノルマンディーでも、石造りの家にダリアが映えていました。庭に咲いているのはコロンと丸いポンポン咲きや、花びらの先が尖ったカクタス咲きで、直径10cmくらいのものが主流です。

 

パリの花市場では大輪のダリアは争奪戦

花市場では大人の顔くらい大きなデコラティブ咲きが大人気。色のバリエーションが豊富なダリアの中でも、とくに「カフェオレ」と呼ばれるピンクベージュの大輪は争奪戦さながら。

「ローズバッド」のオーナーフローリスト、ヴァンソンの仕入れ時間は遅めですが、とくに頼まなくてもダリアの生産者さんがスタンド奥に隠すように取り置いてくれます。

この「顔なじみになる」というのはとても大事で、例えばマルシェでもひいきのお肉屋さんやチーズ屋さん、顔見知りの店員さんを持つほうが、少しでも安い店を探してその都度変えるより結局はお得。スーパーマーケットでさえも常に同じレジ係の列に並ぶとよい、と聞いたことがあります。さらに選べるなら「担当は異性にする」ことが万事円滑にいくコツなのだそう。さすがアムールの国、フランスらしい逸話です。

ダリアのシルクのような花びらは傷つきやすく、決して長持ちする花ではありません。しかし華麗な姿と鮮やかな色が魅力。新学期を迎える9月は、お花屋さんやマルシェに色とりどりのダリアが並びます。

 

パリコレクションで束ねたダリアのブーケ

9月といえばパリコレクションもあります。ハイブランドG社の定期装花を担当しているローズバッドに「フラワーバー」の依頼がありました。上顧客やインフルエンサーを本店に招いて行うバッグの新作発表会に、店内ディスプレイした花でブーケをつくってゲストにプレゼントする趣向。このとき主役だったのがダリアのカフェオレです。

私たちフローリストは全員、黒い服で来るよう指示され、貸し出されたおそろいの黒いブラウスとタブリエ(腰エプロン)を着け、メイク係に真っ赤な口紅を塗ってもらい、ダリアのブーケを束ね続けました。

 

ダリアのブーケを上手に束ねるコツ

茎に対して花が曲がっていることが多く、折れやすいので扱いが難しいといわれるダリア。花のプロでも苦手意識を持っている人が少なくありません。上手に束ねるコツは「花の向きを内側、あるいは横向きにすること」。花が見えるよう外側に向けると、大きな平面になってしまい、ブーケが丸くなりにくいのです。思い切ってダリアとダリアが重なるように斜めに束ねていくと、立体感のあるブーケになります。

もうひとつ、重要なのが組み合わせる花材。ヤマゴボウ、紅葉ユキヤナギ、ベニスモモなど、優雅な曲線を描く枝ものと一緒だと、立体感が出ます。また枝別れしている部分にダリアを置くように乗せると花が安定するのでおすすめです。

ダリア1本と枝もの1本をシンプルなガラス器に挿しただけでも、華やかで印象的な花飾りになります。

近所の花店で自宅用に買ったダリアが3日で萎れてしまったときは、さすがにがっかり。しかし、すぐに「ケーキだって食べたらなくなってしまうけれど、その瞬間に幸福感を与えてくれるのだから、花も長持ちしたか否かで判断するのはやめよう」と自分に言い聞かせたのでした。

 

ダリアの撮影にパリジャンも興味津々

レッスン後は店の外に出て、自然光のもとパリらしい建物をバックに写真を撮るのですが、ダリアを使ったときはパリジャンの反応がことさら大きいのです。

通りがかりに私たちと一緒にブーケの写真を撮る人。「そのブーケ、ちょっと貸して」と店前のベンチに座って記念撮影する人。

駐車していた車の横で撮影していたら、持ち主が現れ「一緒に乗って写真撮ろうよ」とまるで映画のような展開に。

着物でレッスンにいらした方と用意した花材が、まるで図ったように同じ色合いだったこともありました。

 

忘れもしない初仕事はダリアの運搬

今からちょうど20年前。奇跡的な出会いのおかげで、半年間通い続けた憧れのフラワーショップでの研修が叶いました。

忘れもしない初仕事は、花市場から届いたダリアを地下アトリエに運び込むこと。柔らかく繊細な花びらを傷つけないよう、紙に包まず、水の入ったプラスチック桶のまま入荷するダリア。重い桶を持って階段を何往復もするのは大変だったはずですが、すべてがうれしくてたまりませんでした。

家族と離れ、ツテもなく1人でパリに来て、焦りや不安と闘いながら、たくさんの方々に助けてもらい、やっと夢がかなった10月。葉を取り除くときに漂う独特の青い香り、空洞の茎をシュパっと切りそろえる感触。私にとってダリアは特別な思い出の花なのです。

日本と違い、フランスでダリアが流通するのは10月まで。夏時間の終わりとともに、さっと姿を消し、翌年まで会えない花。短く美しい秋の陽射しをまとったダリアの輝きは、より印象深く刻まれるのです。

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