BOOKS
暮らしの本
著者:poritorie
読んだ人:酒井絢子(ライター)
婦人靴の企画の仕事をしていた頃、リボンのショールームによく足を運んでいた。色とりどり整然と並ぶリボンたちは、美しく清らかなものの象徴のようで、自分もそれに見合うように上品でありたいと思わず姿勢を正したものだ。そしてうっとりと眺めているうちに自分用にも欲しくなり、こっそり購入したこともある。
思えば小さな頃からリボンは好きだった。もらったプレゼントに掛けられたリボンも箱に入れてとっておいて、何に使うでもなくただただ眺めたり。そう、欲しくなって買ったリボンも何に使うでもなく、ただ箱を開けるたびにちょっぴりときめいているだけだった。そして今になってこの本を目にして、リボンの可能性にハッとした。
かごバッグで、むぎわら帽子で、くるみボタンで、リボンが可愛らしく表情を持った草花となり、ささやかながら主役級の存在感を示しているのだ。それも決して華美でなく、ナチュラルに上品に生地と調和している。
草花をモチーフに作品をつくり続けているという著者は、まず本物の花をじっくり観察し、それに合うリボン選びから丁寧につくり上げていくのだそう。テクニックや定型の表現に拘るのではなく草花の自然な表情を柔らかく捉えた作品たちは、ほっこりと心を和ませる。
可憐な印象を形作っているドレープやふくらみは、まさにリボン刺繍ならではだ。担当編集者は「糸の刺繍では得られない、あたかも本物の小さな草花が咲いているかのような立体的な表現がなによりの見どころ」と語る。マーガレットやミモザ、蔦や野菊などたくさんの草花をモチーフとしているけれど、刺し方は最低限の8つのステッチに絞り込んでいる本著の図案は、リボン刺繍初心者にもおすすめだそう。
たとえば野に咲く季節の花を見つけたら、この本から図案を見つけて刺してみるのもいいかもしれない。箱の中で眠るだけのリボンではなく、刺繍されることで主役になれるリボンを手に入れなくちゃ。リボンそのものを眺めたり触れたりするだけでも心はときめくのだから、針を運ぶ時間はきっと胸踊ることだろう。
シックな草花をリボン刺繍にしてみませんか。基本の8ステッチだけで様々な花を表現。誕生花ブローチなど小物のアレンジも多彩に紹介。