パリスタイルで愉しむ 花生活12か月 第8話 ピヴォワンヌとフリチラリア

フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第8話は、7話に続いてピヴォワンヌ。そしてその名脇役、フリチラリアのお話です。

撮影・文:斎藤由美

ある日、フラワーレッスンのため「ローズバッド・フローリスト」の地下アトリエに行くと、大人の顔ほども大きく、見事に開いたピヴォワンヌが一束ありました。その圧倒的な存在感。今を盛りに精一杯咲いている姿に見とれてしまいました。オーナーフローリストのヴァンソン、ポリーヌも次々にやってきては「マニフィック!(すばらしいよね)」と声をかけていきます。

 

レッスンに提案した満開のピヴォワンヌ

「これを使ってレッスンしたい。けれど明日か明後日には散ってしまう花。わざわざ日本から来てくださった方に選んだら、がっかりするのではないか」と思い、他の花を探すことにしました。

ほどなくしてレッスンにいらしたTさんも、アトリエに着くなり満開のピヴォワンヌに目を奪われた様子。私は思い切って「長持ちはしないけれど、この花を使って大きなシャンペトルブーケのレッスンをしてみたいのですが、いかがですか?他の花がよければもちろんそれでもいいですよ」と提案してみました。毎年、パリのレッスンに参加されているTさんはすぐに「このすごいピヴォワンヌを使ってブーケをつくってみたいです」と目を輝かせながら賛同してくれました。

 

美しいと思うものを共有する喜び

ピヴォワンヌやアジサイ、ダリアなど大輪の花を組むとき、花の顔を外に向けないで、上に向けて階段状に段差を作るのが私のデザインの特徴です。こうすることで立体感のあるブーケができます。花びらをつぶさないようにていねいに高さと向きを整え、外に倒れがちな大きな花を枝もので支えます。

こうしてでき上がったブーケをお店の外で撮影。爽やかな薫風を受け、蕊(しべ)が生きもののようにゆらゆらと動き、ピヴォワンヌの香りがあたりを包みます。

通りがかりのフランス人たちも携帯電話を取り出して写真を撮ったり、笑顔でブーケを見つめたり、「ブラボー!」と声をかけてくれました。Tさんも身体が隠れてしまうくらい大きなブーケを持って、本当にうれしそう。

レッスン後、なんとTさんはブーケを持ってパリからブルゴーニュに移動。すぐに散ってしまうと思っていたブーケは、旅先で会ったピヴォワンヌの生産者さんからも絶賛されたそうです。

私はほれぼれするようなブーケができたことはもちろんですが、美しいと思うものをお客様と共有できたこと、その感覚、感性が響き合ったことが何よりうれしく、感謝の気持ちでいっぱいでした。そして、自分の信じるところを真摯に伝えていこう、と想いを強くしたのでした。長持ちする花を使うことを最優先させるのではなく、まだ知られていない花の美しさに気づいていただく、そういう活動も大事なことだと思っています。

 

「生きるための花」でなく「花のために生きる」人

Tさんは京都で「たて花」という、生け花の源流を習っています。たて花のS先生がパリのプティ・パレ美術館で献花したとき、開ききった大きなピヴォワンヌを生けたことがありました。生けている途中、散ってしまわないかとハラハラしていましたが、献花が終わった後、S先生は「最後、あいさつのときにバサっと散ってもよかったね」とにっこり。Tさんも普段からそんなエスプリを学んでいるから実現したブーケレッスンだったかもしれません。

S先生はパリで3年ほど生け花のワークショップを開催され、私は花の仕入れなどお手伝いしていました。年に1回はスタッフもワークショップ後に花を生ける機会をいただいていました。

1年目。私は生け花の経験があるため、その知識を元に花を挿しました。S先生は無言で何本も抜いて生け替えました。

2年目。S先生の献花を何度も見る機会があったので、なんとなく真似をして、S先生が気に入りそうな形に生けてみました。S先生はまたしても無言で、ほとんど生け替えたような記憶があります。というのも、周りから「S先生はめったに褒めない人」とは聞いていましたが、私も花の仕事をする者の端くれです。なぜなんだろう?どこがいけないんだろう?と動揺していたようで、よく覚えていないのです。

3年目は、開き直りの境地といいましょうか。形やテクニック、経験、知識にとらわれず、S先生がワークショップ中によくいわれる「花の一番きれいなところを見つけて挿してあげましょう」という言葉を素直に実行することにしました。

先入観をなくし、花1本1本に向き合い、くるくる回しながら、ここを見せてあげたい、という気持ちそのままに、順番も、高さも、役割も、先生からの評価も気にせず、心を真っ白にして生けてみたのです。その花と向き合ったS先生は「かわいくできましたね」と一言。手直しなしでした。自己顕示や作為のない、花に向かう素直な気持ちの結果だったのでしょうか。

私はたまに「花を愛し、花に愛された人ですね」と過分な言葉をいただくことがありますが、まだお若いS先生の花との向き合い方は非常に厳しいもので、先生の花生けを見るといつも「花に選ばれし人」という言葉が浮かびます。「生きる(生活する)ための花」ではなく「花のために生きる」S先生の姿と、このときの経験は、花人生が長くなってきた自分への戒めになっています。

 

軽やかな名脇役との舞いを愉しむ

ピヴォワンヌを家で飾るときは「しなやかな曲線の花材と組み合わせること」がコツ。花は華麗ですが、葉を取り除くとげんこつのような形で、単体で飾るとニュアンスに欠けてしまいます。無骨な茎をカモフラージュしたり、大きな花の上を軽やかに舞うような花材を添えたりすると、より一層生き生きと魅力的になります。

おすすめの花はフリチラリア。とくにフランスでパンタード(ホロホロ鶏)とよばれるグレーがかった紫(モーヴ)色のメレアグリスは、かわいらしいピンクにシックな一筆を加えてくれます。花の先にもくねった葉がついているので、軽快な動きを表現できます。

フランボワジエ(キイチゴの葉)も繊細な曲線を描く先端をピヴォワンヌにかぶせるように添えると一気に花飾り上級者の雰囲気です。白い花をつける枝もの、スランガ(バイカウツギ、サツキバイ)は外側に倒れがちな花を支えてくれます。

ドウダンツツジの伸びやかな枝を組み合わせると、とてもモダンな空間ができます。

美容家、Iさんのレッスンにはピヴォワンヌとフリチラリア・メレアグリス、ビバーナムオプルスに、少々のグラミネ(穂)を用意しました。ブーケを束ねるのは初めてということでしたが、メインの花、クッションになる葉、動きを出す副素材を上手に使って、あっという間にできあがり。ワンピースにぴったりな色のブーケでした。

奇しくも先日、Iさんもご自身のインスタグラムでピヴォワンヌの潔く散る姿の美しさに触れ、テーブルにこぼれた花びらの画像を投稿されていました。

 

本来持っている感性を目覚めさせる

日本で花のレッスンをしている先生方から「生徒さんから長持ちする花を期待されているので、ピヴォワンヌが素敵だと思ってもなかなか使えない」と相談を受けることがよくあります。

長く飾ることも花との向き合い方の1つですが、数日しか持たなくてもこんなに素敵な花がある、ということに気づいてもらうこと、朽ちていく姿や、思い切り咲いて散っていく姿も美しいという、みなさんが本来持っている感性を目覚めさせることも、レッスンで伝えられる大切なことだと考えています。

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