インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2021/01/20
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。2020年の2月から始まったこの連載もいよいよクライマックス。最終回の第24話はスミレとスイートピーのお話です。
撮影:斎藤由美、ファームたかお(枝スイートピー) 文:斎藤由美
1月になると南仏からヴィオレット(小さなスミレ)の花束がパリに届きます。小さな花の周りを囲んでいるのはスミレの葉。ほのかな香りが立ち上ります。
森に咲く野生のヴィオレットは草丈3cmほどですが、花市場に出回るものは水耕栽培で、茎が20cmもあります。
ヴィオレットはいったん摘みとってしまうと、数日で花が乾いて縮んでしまう、はかない花。
それを逆手に取り、水をいっぱいに入れたガラス花器の中に、ヴィオレットを沈めたディスプレイを修業先で見たときは度肝を抜かれました。
普通に飾っていても長持ちしないのだから、と水中花のようにヴィオレットを完全に水に浸けてしまうスタッフの発想。それを許める店長。さすが世界的に知られたフラワーアーティストの店です。残念ながらパリに店舗がなくなってしまった今も、人々の心に残っている名店の秘密はここにありそうです。花そのものを売るのではなく、斬新なデザインを売る。スタッフたちが競い合うようにアイディアを出し、切磋琢磨していた一流のフラワーショップで修行できたことは、私の大きな財産です。
そんな思い出をたどりながら、週末に森で摘んだヴィオレットを、ガラス器に浮かせてみました。浮き花は折れてしまった花や、ブーケの中で生き残った花などでも愉しめるので、ぜひ試してみてください。
現在は、フランスでも日本でも手に入る花がほとんど同じになりましたが、茎の長いヴィオレットは日本で見かけたことがありません。反対に、日本の花市場に出回る丈の長いパンジーは、フランスでは手に入らない花材です。あってもかなり短いのです。
花姿の愛らしさ、絶妙な混色。パンジーだけでも充分魅力的ですが、私はスイートピーやローズ・ド・ノエル(クリスマスローズ)、ビバーナム、早咲きの桜との組み合わせがたまらなく好きで、この時期に日本へ一時帰国し、レッスンやデモンストレーションをするほどです。
パンジーに合わせる葉ものは、なんといっても「豆の花」。瑞々しい葉と茎を持ち、ブーケに透明感を与えてくれます。さらにくるんと丸まった先端のツルが花の上で踊るよう。ブーケを生き生きさせてくれるのと、どの花にも合う守備範囲の広さ。折れやすいことと、シャンペトルブーケを束ねるには短いのが難ですが、花市場にあるといつも買い占めてしまいます。
豆の花を使ってブーケをつくるときは、丈の半分より下にある葉をすべて取り除くことがポイント。もったいないようですが、このひと手間で、ブーケがより可愛らしく、洗練されたものになります。
豆の花、といえばスイートピーも元々は豆の花ですね。日本で出荷されるスイートピーは丈が50cmもあり、先端まで見事に花が咲いています。これはこれですばらしいのですが、パリのフローリストたちは、先端がクルクルしたツルや、ほっそりしたつぼみのしなやかさに惹かれます。
異業種からスイートピー農家に転身した友人夫妻から「車に例えるとドイツ車のように、どれだけ頑丈なスイートピーをつくるか、が評価の対象」と聞きました。そのとき私は「では、あなたたちはぜひフランス車のような、故障が多いかもしれないけど、曲がっているなど個性があるスイートピーをつくってください」とお願いしました。
先達から教えてもらいながらの状況では、人と違うことをするのは難しいだろうと想像します。しかし、友人夫妻は先端がつぼみのスイートピーの出荷を徐々に始め、ついに「枝スイートピー」という商品名で、豆の花より丈の長い花材を流通させることに成功しました。日本のフローリストたちと交流を深め、ニーズが多いことを知っていたのも活動の後押しをしたと思います。
同時にスイートピーの着色にも挑戦。既存の明るい色ではなく、渋い青やグレー、あるいは迷彩色のような独特の色。
彼らの姿勢は、前述した私の修業先、パリの有名なフラワーショップと同じ「敢えてやる」「常識を超える」というエスプリを感じます。
それから数年後、私が芦屋で開催したデモンストレーションに送られた新作の染めスイートピー。これを私がどう使うのか、愉しみにしていてくれたようです。私も初めて使う色でしたが「挑戦、受けて立ちましょう」とばかりに花問答を愉しみました。
彼らは無農薬での栽培にも取り組んでいます。1年目は惨憺たる結果だったそうですが、諦めずに土をつくり続け、働く人にアレルギーの出ない環境をも手に入れたのです。こういう志を持った生産者の方々と、今後も一緒に仕事ができたら、と胸を躍らせています。
そして、フランスと日本の農家さんが技術協力して、パリでもあの丈の長いパンジーが手に入る日が来るよう、夢見ているのです。
奇しくも新型コロナウイルス感染症の拡大と時を同じくスタートした連載。今月、最終回を迎えました。2回のコンフィヌモン(外出規制)で外に出ることも、人と会うこともできなかった期間はトータル3か月半。私のメインの仕事である、日本からのお客様にレッスンをすることもできなくなり、大きな変化があった1年でした。不安を感じずに済んだのは連載を含め、花があったおかげです。
家にいる時間が大幅に増えたことで、家に花がある喜びを再認識しました。水を替え、手入れをし、写真を撮り、文章を綴ることで、不安に流されがちな生活の軸がきちんと立っていたように思えます。また花との関わりをじっくり考えるよい機会にもなり、先の見えない1年を毎回の連載が支えてくれました。
「楽しみに読んでいます」という声にも、ずいぶん励ましていただきました。読んでくださった方々、このような機会を与えてくださった方々に心から感謝します。ありがとうございました。「いつも心に花を」。この言葉で歴史に残る1年とともに歩んだ連載を締めくくりたいと思います。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/
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