パリスタイルで愉しむ 花生活12か月 第18話 秋バラ

フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第18話は秋バラのお話です。

撮影:斎藤由美、天野百合子(八ヶ岳の庭とブーケ) 文:斎藤由美

夏の間、ひっそり休んでいたバラが、秋を迎えると2度目の花をつけだします。強烈な陽射しに耐えた後、ちょっとくたびれたように咲く秋バラ。その風情に心惹かれるのは、自分も人生の折り返し地点を過ぎているからでしょうか。

 

哀愁漂う秋のバラに親近感を覚えて

初夏のバラは、びっしり鈴なりに咲き、花のひとつひとつが幾重もの花びらを擁しています。その様子はまさに「咲き乱れる」「咲き誇る」という言葉がふさわしい勢い。まるで喜びと希望に満ちあふれ、人生を謳歌しているかのようです。

対して秋バラは、一枝に咲く輪数も、花びらの枚数も初夏のバラに比べてずっと少なく、控えめです。同じバラの枝だというのに。花の形もいびつで、外側はシミのように変色した花びらが多く、なんとなく哀愁が漂っています。それが「つらい夏をなんとか乗り越え、がんばってもうひと花咲かせてみました」と健気に見えるのかもしれません。勝手に親近感を覚えながら、再び花をつけてくれたバラに見とれて歩く秋の始まりです。

 

秋の野原の「乾いた寂しい風景」という美しさ

私が修業したパリの有名花店は、どこの花屋さんでも見かけるモダンローズはなく、オールドローズといわれる丸い形のバラや、しなやかな茎、かぐわしい香りを持つガーデンローズを扱っていました。近くにモダンローズのチェーン店があり、差別化を図っていたのかもしれません。その流れを汲むローズバッド・フローリストも何より旬を大切にしているので、年中流通するモダンローズはほとんど並びません。

ですからレッスンでも、イヴ・ピアジェやピエール・ド・ロンサール、タンゴといったローズ・ド・ジャルダン(庭のバラ)をよく使います。ごく稀にモダンローズを使うときは、あえてふちがカサカサしている紅葉したフランボワジエ(キイチゴの葉)や、花の部分がすっかり枯れたトラノオを合わせます。実つきヘデラベリーのような艶々したグリーンだと、クラシカルになってしまうことと、秋の野原の乾いた寂しい風景を表現したいからです。

一重のバラを使ったときは、花びらが落ちて蕊(しべ)だけになっているものも使いました。日本のお花屋さんでは、ありえない組み合わせ。すぐにクレームが来てしまいそうですね。新鮮な花を販売する「ショップ」と、デザインや感性を伝える「レッスン」の大きな違いがここにあります。

私がレッスンで伝えたいのは、テクニックはもちろんのこと「何を美しいと思うのか」という感覚。「こんな美しさもあるんだ、こんなふうに表現していいんだ」と気づいてもらうことが大切なのです。今後もパリスタイルレッスンならではの面白み、意外性を追求していきたいと思っています。

 

シャンペトルスタイルをレッスンで伝える

パリと日本をつなぐオンラインレッスンを始めてから、月2回のペースでお申し込みいただくAさん。東京・世田谷でお花の教室を主宰し、30年というキャリアをお持ちです。八ヶ岳にもアトリエを構える二拠点生活で、毎回八ヶ岳の庭から摘んだ花材でオンラインレッスンに参加。

パリのシャンペトル(野山の風情)スタイルを日本に伝える私にとって、胸が躍るひとときです。6月のレッスンは、たわわに咲いた香り高いローズ・ド・ジャルダンをふんわりと束ねていただきました。

「また庭のバラが咲いたので」と10月にリクエストがあったとき、私は「できればバラのつぼみから、開きかけた花、満開のバラ、花びらを落として蕊が見えているもの、実、枯れた葉もぜひ採取してください」とお願いしました。Aさんは「そんなバラを使うなんて思いもしなかった。きれいに咲いているものだけ集めるつもりでした」と驚いていました。しかし、できあがった作品に大感激。虫食いの葉も使ったバスケットアレンジメントは「バラの一生のドラマを挿すコンポジション」と命名され、SNSでも大きな反響を呼びました。

私がパリに花の勉強に来て、最も大きく変わったことは「きれいに咲きそろった花を使って丸や三角など、幾何学体を作る」ことから「自然の風景を再現し、室内に取り込んで愉しむ」という視点になったことです。ランジス花市場でも、ハウスで育てた規格品のバラより、生産者さんのスタンドに並ぶ1本ずつ咲き姿の異なる個性派が気になります。

第3話「チューリップ」でも触れたように、フランスはワインとフロマージュ(チーズ)を愛する国だからでしょうか。何でも若ければいいというものではなく、熟成に敬意を払い、人においても年を重ねたからこそ得られる魅力に敏感な気がします。

大統領夫人がかなり年上なことでも知られるように、フランスでは年配の女性を「おばさん」と一言でくくり、眼中に入れないような感覚は少なく、また女性も「私はもう年だから」とあきらめたりしません。いつまでも女性として美しく、男性は男性で、年を取っても異性を惹きつけようとする意気込みが感じられます。夫婦間でも同様。それを讃え、認め合うエスプリは見習いたいものです。

話が少々それましたが、日本にも平安時代から「もののあはれ」という美意識が存在し、「侘び寂び」の感性はフランスでも知られるところ。部屋に飾ったバラの花びらに翳りが訪れる瞬間に気づく。勢いを失い萎れゆく姿に美しさを見いだす・・・若さみなぎる姿ばかりをよしとせず、寂寥とした趣きにも目を向けたい季節です。

森を散歩していると、バラの実の鮮やかな赤が目に飛び込んできます。ワインボトルの空き瓶やピッチャーに挿して、家で秋の実りを愉しむのもおすすめです。

 

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