更新日: 2019/01/15
写真協力:apollon 撮影:奥 陽子、石川奈都子 文:つくりら編集部
ときは19世紀初頭。フランス北西部・ロレーヌ地方の小さな街、リュネヴィル(Luneville)で、世にも美しい刺繍の技法が誕生しました。コットンチュールに専用のかぎ針を使って真珠やスパンコールをちりばめていく、その刺繍は、発祥の地の名前をとって「リュネヴィル刺繍」と呼ばれるようになります。
魅惑的な光を放つスパンコールや吸い込まれるような深い色を湛えるビーズ、複雑な模様を描き出す金銀の糸・・・。古き良きベルエポック時代のパリを彷彿とさせる瀟洒できらびやか刺繍は「糸の芸術」と呼ばれ、有名メゾンが手がけるオートクチュールのドレスや舞台衣装に受け継がれていったのです。
▲apollonさんの小冊子「Crochet de Lunéville(クロシェ・ド・リュネビル)」より。繊細で華やかなスパンコールやビーズは、オートクチュールらしさを表現できる素材。素早くたくさんのビーズを刺し並べられるのは、リュネヴィル刺繍の技法ならでは。
リュネビル刺繍がフランスで産声をあげてから、時を経ること数十年。日本ではサムライの時代が終わりを告げ、文明開化でさまざまな新しいものが世の中に登場するようになりました。西の都、京都で糸六さんが「糸商」を始めたのは、そんな明治の黎明期。明治、大正、昭和、そして平成と、連綿と「糸」と「笑顔」を人々につなぎながら、京都の老舗糸屋として、次の新しい時代を迎えようとしています。
▲京都の糸六さん、現在の店舗。小上がりでは五代目当主の今井登美子さんが丁寧に応対してくれる。つくりらで一番最初に糸六さんを取材した記事より。
「上質な絹糸には、艶、そして糸を引いたときにきりっと締まる感触があります。糸六の糸色は全部で160色。糸六らしさを大切にした、はんなりとした色からパッキリとした色までが揃っています」。そうおしえてくれたのは、五代目当主、今井登美子さん。
▲糸六さんの160色。2018年10月に開催した「つくりら文化祭」は糸六さん初の東京出展。糸六さんの糸、160色が一堂に会した様子は圧巻。待ちわびた関東のファンが次々と来店し、なかには160色すべて買い求めるお客様も。
2018年には、元々職人さんの仕事場となっていた2階を改装してイベントやワークショップができるスペースができ上がりました。
▲糸六さんの2階に新しくできたスペース。写真は刺繍作家のatsumiさんとのコラボレーションワークショップのときの様子。
京都の絹糸とフランスのリュネヴィル刺繍。そんな思いもかけないめぐり合わせがあったのは、昨年のこと。刺繍枠を手がけるApollon(アポロン)のオーナー、相馬美保さんが、刺繍作家のShion(シオン)さんとともに京都を訪れたときのことです。
糸六さんの艶やかな絹糸だったら、ひと味違った作品ができ上がるかもしれないーーそう直感したのはShionさん。パリのオートクチュール刺繍学校ルサージュでみっちり修行を積み、リュネヴィル刺繍を熟知している彼女のまさに“セレンディピティ”ともいえる瞬間でした。
ビビッドな色づかいやポップな作風が得意のShionさん。「伝統技法」や「老舗の絹糸」といった“重み”を、軽やかに飛び越えて、鮮やかな現代アートに仕立ててしまう・・・そんなフレッシュな感性の持ち主なのです。
▲Shionさんの体験レッスンの風景。見ているだけで元気をもらえそう。
「伝統技法」×「老舗の絹糸」×「フレッシュな感性」。この3つをつないだワークショップを企画したのが、Apollonの相馬美保さん。自身の趣味を突き詰めて、ついに刺繍枠をつくる会社を起こしてしまったという情熱の持ち主です。
ワークショップで制作するのは、ビーズトレイ。Shionさんの見本作品は、糸六さんの糸のなかでも鮮やかな糸をチョイスしてポップで楽しい雰囲気です。リュネヴィル初心者にはうすい色だと糸が見えにくく、刺しづらいそう。そのあたりも熟知したセレクトなのですね。
▲糸六さんのトレードマーク「へのへのもへの」をイメージしたにっこり顔と、糸巻きのモチーフ。どちらも初心者にやさしい技法だそう。
ワークショップではApollonさんの刺繍枠を用意。両手を使うリュネヴィル刺繍では、枠を持たないで刺せる枠が必要になります。手早くピンと布が張れるコンパクトな刺繍枠は、これからリュネヴィル刺繍を始めてみたい人や、手軽にオートクチュール刺繍を楽しみたい人には、ぴったりの道具なのです。
▲Apollonさんの刺繍枠、「Urd(ウルド)」。名前は北欧神話の「運命を織りなす」という意味を持つ、女神ウルズから。右側が糸立ての「Lotus(ロチェス)」。糸巻きから直接、糸を引き出すための必需品。由来はフランス語の「蓮」。その下が専用のかぎ針、クロシェ「Topu(トゥプ)」。こちらはインカのかんざしTUPUの美しい形状から命名したそう。
「トレイに刺繍をする前に、基本的な刺し方とステッチを丁寧に指導します。これまでと違う無心になれる感覚も体感いただけると思います。かぎ針の持ち方、糸のかけ方、糸を引き上げるコツなど、3色の糸を使って練習しましょう。全日程、Apollonの相馬もサポートに入ります!」と相馬さん。
自らもリュネヴィル刺繍を習いにフランスに飛び、わかりやすい教え方に心をくだく相馬さんに、つくりらスタッフも手ほどきを受けました。ほんの10分ほど練習すると、コツがわかってきて、針がスイスイ進むように。「うーん、難しい」から「あら、楽しい」に、気持ちが変化していくのがわかります。
▲クロシェと呼ばれる、専用のかぎ針を用いた特別な刺繍技法。
▲初めての人には手前から奥へと進む直線の練習から。慣れてきたら別方向のステッチ、さらには円や曲線などにも挑戦。
ワークショップでは、糸六さんの160色からShionさんとApollonさんで、「春」「夏」「秋」「冬」「Atelier Avibe」「Paris」の6パターンで各3色をセレクトしたそう。プロのカラーセレクションのなかからお気に入りが選べるなんて、楽しみが広がりますね。
ワークショップの概要は以下のとおり。
日程
A日程:2月1日(金)①12:15〜14:15 ②15:00〜17:00
B日程:2月2日(土)①12:15〜14:15 ②15:00〜17:00
場所
糸六株式会社 2階六治郎庵
〒600-8427 京都市下京区松原通室町東入玉津島町298番地
http://itoroku2525.com/company.html
講師:Shionさん。Atelier Avibe (アトリエ アヴィビ)主宰
レッスン作品:ビーズトレイ1つ(直径7cm)を制作。
透けるシルクオーガンジーに専用のかぎ針を使って絹糸を刺繍します。図案は、イニシャル、糸まき、ニコニコ図案から1つ選びます。トレイの縁飾りに使うブレードはビビットカラー数色、パステルカラー数色を用意します。
レッスン費:各回 10,800円 *材料費、消費税込み
定員:各回6名
持ち物:刺繡に必要な道具はすべて用意(両手が使える刺繍枠Urd・リュネビルクロシェTupu・糸立てLotus・待ち針等)。普段お使いの眼鏡類(ハズキルーペ等)が必要な方はお持ちください。
ご予約方法:メールにて受け付けます。
Apollonのホームページ http://apollon-broderie.jp/contact/ より、お名前 ・お電話番号 ・ご希望の日時 (記載例/A日程②)の3点を明記の上お申込みください。 *2日以内に返信がない場合は、お手数ですが、お電話(050-1392-1221)またはインスタグラムのDMにお問い合わせください。Instagram:apollon.delphine
Shion
Atelier Avibe (アトリエ アヴィビ)主宰。パリのオートクチュール刺繍学校Ecole Lesageにて、700時間以上の講座を1年3か月で修了。ルサージュ最新の課題を全て習得した日本人初、同時期にVictoria Darolti とLes Beaux Art du Filにも学ぶ。ビビッドな色使いや現代的な作風を得意とする。
インスタグラム:@atelier_avebe
つくりら文化祭*開催レポート01 | はんなり色にときめいて、手仕事の造形美に酔いしれる。2日間だけのセレクトショップ
糸六株式会社の「絹糸」|いつも笑顔で上質な“糸”を“売”る。その心があったから、長く“続”く商いになった。
絹糸で刺繍する(前編)|京都の老舗糸屋「糸六」女将の挑戦。刺繍作家atsumiさんとのコラボレーションバッグができるまで。
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