静かに語られた植物と刺繍の物語|編集後記 第1話

2021年9月に刊行された、刺繍作家・マカベアリスさんの著書『植物刺繡と12か月のおはなし』
マカベさんとの出会いから、つくりらの連載、そして書籍刊行まで、フリー編集者・須藤敦子さんに編集後記を寄稿いただきました。世の中がまだ穏やかな頃、つくりらワークショップを終えた帰り道、「マカベさんに連載をお願いしたいの!」と、須藤さんが熱の入ったお話をされていました。その反面、「引き受けてくれるかなぁ」なんて、弱気も見せていた2020年早春の頃。ついこの間のようです。

撮影:マカベアリス、奥 陽子 文:須藤敦子、つくりら編集部

マカベアリスさんに初めてお会いしたのは、つくりらでの「つくり手を訪ねて」の取材です。アトリエにおじゃまして、制作風景の撮影とインタビューをさせていただきました。

刺繡作家マカベアリスさん

独学でステッチを覚え、バッグやブローチなどをつくっていたというマカベさん。当時、刺していたモチーフは、電話やかご、パンなど、モノばかりだったそう。そんなマカベさんの作風がガラリと変わったのは、2014年。かつて留学をしていたイスラエルに再び訪れてからだと伺いました。

イスラエルから帰国後、植物がすごく生き生きして見えて、「植物たちの声が聞こえてくるような気がした」そう。それから、いのちの美しさを刺繍で再表現したいと強く思うようになり、草花や鳥などの生き物を刺し始めたのだと教えてくれました。

当時を振り返りながら、静かに語られた植物と刺繍の物語。わたしたちは床にぺたんと“体育座り”になり、すっかり聞き惚れてしまったのです。

 

つくりらの連載で紡がれた話

インタビュー取材や「つくりら文化祭」でのワークショップの依頼などを経て、ますますマカベさんの作品が好きになっていったわたしは、思い切ってつくりらの連載をお願いしました。

つくりら文化祭 マカベアリスさん

テーマは「植物刺繍と季節のお話」。四季折々の身近な植物から感じる思いや喜びを綴っていただきながら、そこから着想した刺繍作品を毎月1作品つくりあげていくという内容です。

マカベアリスさん 草花刺繍

この時点で、書籍にしたい、という思いはありましたが、あえて書籍化するための “しばり” は設けませんでした。お願いしたのは「季節に合わせた作品」という一点だけ。その季節に感じたことを自由に形にしてもらえたら、それがいちばん。書籍にまとめさせていただく、という幸運が訪れた際には、そのとき改めて考えよう。そう心に決めました。

1年間の連載中、毎回、作品もさることながら、マカベさんが綴る文章がとても楽しみでした。季節を描写する言葉ひとつひとつに、丁寧に自然と向き合うマカベさんの姿勢が感じられ、自然を慈しむ気持ちが伝わってきました。最初に文章を読ませていただく担当編集者の「特権」を、このときほど嬉しく感じたことはありません。

マカベアリスさん パッチワーク刺繍のポーチ

ものづくりをする人が綴る文章は、どうしてこんなに心に響くのでしょう。それはおそらく、あらゆるものをじっくりと観察していて、それがおのずと言葉になってあふれてくるからかもしれません。

Instagram:@tsukurira0714

【書誌情報】
『植物刺繡と12か月のおはなし』
著者:マカベアリス『植物刺繡と12か月のおはなし』「つくりら」で、昨年1年間連載された人気エッセイ「植物刺繍と季節のお話」で発表したポーチやバッグなどの小物作品12点に、リースやサンプラーの新作23点を加えた全35作品を掲載。
4月から始まって3月まで、12か月の季節の移ろいや草花、風景を切り取り、刺繡で表現。全作品の実物大図案と作り方を紹介しています。電子版でも図案のダウンロードができます。
マカベさん自身が季節の中でどのように題材を得、どのようにそれを形にするかを垣間見ることができ、オリジナルの刺繡作品制作のヒントがたくさん詰まっています。エッセイで紹介された季節のモチーフをデザインする過程や、布の素材や糸の色選び、刺し方のコツ、などについても、ポイントを押さえて収録しています。

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