佐東 玲さん(後編)|一緒にニードルタティングを楽しめる仲間ができて、ワイワイおしゃべりしながら編めたらとても嬉しい。

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佐東 玲さん(後編)|一緒にニードルタティングを楽しめる仲間ができて、ワイワイおしゃべりしながら編めたらとても嬉しい。

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前編では、佐東玲さんがニードルタティングを始めたきっかけや挑戦したことについてお話を伺いました。後編では、著書『はじめてのニードルタティング 針一本でできるモチーフ・リボン・ドイリー』に込めた思いや制作エピソードなどをお伝えします。

撮影:奥 陽子 取材・文:庄司靖子 協力:Studio Bouquet

小さい頃からアウトドア派で、陸上やバスケットボールなど、スポーツに親しんできたという佐東さん。タティングレースと出会うまで手芸とはほとんど縁のない毎日を過ごしてきたというから驚きですが、もっと驚くのは、実は佐東さんが現役の医学生だということ。将来は医師になるという目標を持ち、日々勉強しながら、ニードルタティングの本を上梓したという異色の経歴です。佐東さんはなぜ今回、ニードルタティングの本を出そうと思ったのでしょうか。

 

出版社へ企画を持ち込む

「ニードルタティングを始めてから、シャトルの編み図を針でも編めるように変換していく、ということを考えていて、ある程度の基礎技術ができるようになったときに、何かにまとめたいなと思ったんです。ブログでもよかったのですが、せっかくまとめるならひとりの世界でまとめるよりも、より多くの人の目に触れるところで技術を公開したいと思ったんですね。それなら、出版社に頼るのもありなのかな、と思って企画を提案しました」


▲著書には掲載されていないピアス。“短時間でつくれるもの”をコンセプトにデザイン。実は佐東さんはカラフルな作品も好き。左はモチーフをのりで重ねていくタイプ。

 

つくり方のページにとことんこだわる

本の出版が決まったとき、佐東さんが一番こだわったのはつくり方のページです。タティングを初めて知った人がこのページを見て理解できるか、手芸の知識がなくても編めるか、この本一冊で完結できるのか、ということにとことんこだわりました。

「本の制作スタッフの世代が幅広く、手芸の経験値が異なるいろいろな立場の人がそろったのも幸運だったと思います。手芸に慣れ親しんだ人ならわかる言葉づかいが、そうでない人に理解できるか、逆に、手芸に詳しい人にとって違和感がないか、など、あらゆる角度から検証しました。撮影がすべて終わってから、一度そのメンバーで集まり、表現の仕方について検討し合う会議を設けたくらいです」


▲佐東さんが愛用しているのは、主にアメリカの会社が販売しているリズベスという糸と日本のオリムパスの糸。「グラデーションの糸が好きで、よく利用しています」

回を重ねて話し合い、こだわったところが本に反映されて、初心者でもタティングを編める本ができたことに「とても満足しています」と笑顔の佐東さん。そのこだわりは、今まさに勉強真っ最中の学生だからこその発想ではないかと感じました。

「私はこの本を辞書か参考書だと思ってほしいんです。編みたい作品の載っているタティングの本を手元に置いて、シャトルの編み図を見ながら、わからないテクニックがあったらこの本で調べてもらえたらいいなと思っています」

 

慣れれば誰でも早く編める

前編では、タティングを編むときのポイントをご紹介しました。後編では実際にモチーフを編んでいく方法を見せてもらいました。

こちらは基本の道具。糸切りばさみ、糸通し、レース針、タティング用の針、レース糸。これさえあればニードルタティングを始めることができます。さっと持ち運ぶことができるので、外出先で楽しめるのもタティングレースの魅力です。


▲佐東さんの七つ道具はカンペンケースに収められている。

リングをひとつつくる工程。写真はレース針でピコつなぎをしているところです。

針の穴側から3分の1くらいのところを持ち、針に対して糸が直角になるように編んでいくと針が曲がったり折れたりすることがありません。

お話をしながら5分ほどで花モチーフを編んでしまった佐東さん。「本の制作のためにとにかくたくさん編んだので、針の動かし方が早くなったんです。慣れれば誰でも早く編めますよ」

糸始末をしたら花モチーフの完成。ニードルタティングはシャトルで編んだものと違い、針が通るためふっくら仕上がります。「好みだと思いますが、私はふっくらした雰囲気が好きです」

 

「Snowflake」からデザインが広がった

忙しい勉強の合間を縫っての本づくりはさぞ大変だったのではないかと聞いてみると、「ものすごく楽しかった」という答え。空き時間を見つけては、ずっと針を動かしていたと言います。もちろん、期日までにレースのデザインを考え、編んで仕上げるというのはこれまでに体験したことのないプレッシャーではありましたが、「本づくりにおけるすべての工程を楽しめた」と佐東さん。「最初の1か月は、デザインを描いてはボツ、描いてはボツ、で、終わらないんじゃないかと焦りました。でも編集の方が望んでいるデザインがわかると、一歩進めるようになりました」

授業や実習の空き時間を利用してデザインを考えたり試作したりしたそう。「煮詰まったときは喫茶店に行くなど環境を変えて考えました」


▲タティングレースのデザイン画やプロセスページの元になったラフ。レシートの裏やメモ用紙などに、思いつくままに描きこんでいく。

本のためにデザインを提案していたとき、唯一通ったのが「Snowflake」というモチーフでした(写真右から二番目)。それが基本になり、さまざまなデザインが広がっていきました。「縁周りを赤い糸で編んだデザインは四角というお題でつくったものですが、本には掲載されていません」

こちらは、グラデーションの糸でつくったピアス。「本を出す前からつくっていたもので、友人にプレゼントしたりSNSに投稿したりしました。こういう雰囲気が自分らしい作品かもしれません」

本の制作が終わってからつくった作品は、クラゲ。もともとは失敗作から誕生したそう。「原形は、本に掲載されているPlum blossomというモチーフです。最初つくったときに目数が合わず中央が浮いてしまったのを思い出し、あえてその目数でクラゲの傘部分を表現しました。実用的ではないのですが、仕事が終わったら無性につくりたくなって」。

 

一分、一秒にすべてを注ぐ

もともと、「二つのことを並行してできないタイプ」と、自己分析する佐東さん。普段から、急な用事が入っても対応できるように、やるべきことをやっておく、ということを心掛けているそう。

「今のこの一分、一秒に対して、すべてを注ぐようにしています。そしていつも“空(から)”の部分をつくるようにしているんです」

課題を先延ばしにしない佐東さんのこの姿勢が、本をつくるうえで大いに役立ったことは間違いありません。そしてそれは仕事や勉強だけでなく、生活のすべてにおいて大切なことだと感じました。

最後に今後、医学の道に進むその傍らで、ニードルタティングとはどのように関わっていきたいか聞いてみました。

「今回の本に載せられなかった技術がまだありますので、いつか紹介できたらいいなと思います。また、機会があればワークショップも開きたいですね。そして私のいちばんの望みは、仲間が増えることです。いつか一緒にニードルタティングを楽しめる仲間ができて、ワイワイおしゃべりしながら編めたらとても嬉しいです」

そんな佐東さんのワークショップが、ついにつくりら主催で開かれることに。ニードルタティングを一緒に楽しめる仲間がほしいという佐東さんの願いも少しずつ叶っていきそうです。

 

 

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