植物と人をつなぐもの 第4話(前編)|多肉植物を「進化するアート」に。植物本来の「生きる」というテーマを伝え続ける。

TOKIIRO(トキイロ)さんの連載、第4回目の前編は、今年3月に開催された東京・銀座の森岡書店での作品展のお話です。アレンジひとつひとつに込めた思いも綴ります。

撮影・文:TOKIIRO (近藤義展)

ソメイヨシノが誕生したのは江戸時代末期頃。幾度となくあった大火を乗り越え、燃え残った幹から新芽が芽吹き、連綿と命をつないできた花は、昔も今も変わらぬ姿で一斉に春を印象づけてくれています。

目まぐるしく変化していく文明と人類本位の社会のなかで、人はどれだけのものを生みだし、どれだけのものを壊し、どれだけ地球本来の営みに負担をかけてきたのだろうか。

多肉植物と向き合う生活を始めて、彼らの声に耳を傾けてみると、聴こえてきたのは地球目線の、そして植物目線での警告。そんな植物が放つ“声なき声”を伝え、広めなければ・・・。季節が一巡するたびに、そんな使命感がますます強くなってきています。

 

作品展は植物のメッセージを伝える場

植物からのメッセージをどう伝えるか?トキイロなりの伝え方は現在、多岐にわたっています。そのひとつが、多肉植物を「進化するアート」として表現すること。小さな器に多肉植物の世界を創り、植物本来の「生きる」というテーマを伝え続けています。

そのメッセージを伝える場になっているのが、今年で3年目となる東京・銀座の森岡書店での作品展です。今回の展示は、2017年に出版した『多肉植物生活のすすめ』(主婦と生活社)の英語翻訳版の出版記念。多肉植物が生きる姿を、よりスタイリッシュに魅せる空間づくりをテーマに、展示什器から制作しました。

照明は、植物が光合成に必要な光の波長を増幅させた特殊なLEDを使用。光不足のため本来は生息できない屋内で、多肉植物の生長を可能にしました。展示高を1100mmと高めに設定することにより、彼らの世界まで目線を落とすことができ、声が聴こえてくるほど親密になっていただければ、との思いです。

展示背面にアールを施し、照明を多肉植物の後方に落とすことにより、植物の輪郭や陰影を、よりドラマチックに表現しています。

 

植物に導かれるように、世界を組み上げる

作品展でお見せしたアレンジをいくつかご紹介します。作品はすべて展示中に、LED照明のなかで撮影したものです。

1つめは、展示2日目の朝に制作したアレンジです。「アトリエの隅で長い間静寂の中にいた黒法師が今朝、突然声を上げたかのように僕と目があった。暑い夏も寒い冬もしっかりと体に刻み込んで凛と輝く葉は力強く空に伸びる」という長い題名。

▲黒法師、南十字星、若緑、タイトゴメ、スプレンダーなど。

何かに導かれるように黒法師を手に取り、世界を組み上げていきました。何の意図も持たずに、ただただ彼らの生きる様を形に。

次にお見せする作品は、マットで優しい曲線の器ににぎやかな世界を創作。時間の経過とともに小葉のセダムたちが器を包み込むように枝垂れていく。その姿を想像するだけでワクワクします。

▲エレガンス、森村万年草、ゴールデンカーペット、リトルミッシー、朧月、ドラゴンズブラッド、月美人など

 

美しすぎる葉姿は、まさに自然のなせる技

こちらの作品名は「石に咲く花」。乾いた世界に咲き続ける平和の蓮のような葉姿です。ピンクに紅葉し、美しい季節を表現しています。

▲パールフォンニュルンベルク

小さなフリルをもつシャビアナを、時間をかけてコンパクトな株に養生してきました。ぎっしり詰まった葉姿は本当に花のようです。

▲シャビアナ

この作品の名前は「森の奥に」。深い森に迷い込んだ先の切り立った岩の上にある景色をイメージしました。あの岩を登れば遠くまで見渡せるかもしれないですね。

▲黒法師、ハムシー、グリーンネックレス、エレガンスなど。

 

▲展示会会期中に販売した英語翻訳版『Stylish SUCCULENTS』。

 

後編は、展示会の舞台となった森岡書店の森岡督行さんと「コエルハコ」のお話です。

 

 

 

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