poritorieさん(後編)|ひと針でひとつの葉っぱがすぐに生まれるリボン刺繍。生地の上にパッとお花が咲く瞬間が楽しくて。

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poritorieさん(後編)|ひと針でひとつの葉っぱがすぐに生まれるリボン刺繍。生地の上にパッとお花が咲く瞬間が楽しくて。

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前編では、刺繍作家「poritorie(ポリトリエ)」を語る上で欠かせないアンティークの世界や、リボン刺繍を始めたきっかけなどについてお伝えしました。後編では、リボン刺繍の魅力や初めての著書『小さな草花でいろどる リボン刺繡&小物たち』への想いについてお話しします。

撮影:奥 陽子  取材・文:酒井絢子

 

イマジネーションを掻き立てるもの

アトリエのみならず、リビングにもインスプレーションのヒントとなる植物やオブジェがあちこちに点在しています。なかでも圧巻なのは、たくさんのお気に入りがディスプレイされた窓際のコンソールテーブル。著書の巻頭にも掲載された素敵なコーナーです。

フランスのアンティークやキャンドルスタンドが置かれたテーブルの上で、ひと際存在感を放っているのが植物標本。自然の造形美を独特の世界観で表現しているブランド「errer_(エレー)」のものだそう。植木さんの大好きなモチーフや色合いが詰まった、アーティスティックなインテリアオブジェです。

 

モチーフ選びは実物の花や植物図鑑から

図案をおこす際は、実際に自宅のお庭に咲く花や、本物を忠実に再現した植物図鑑をじっくりと観察するそう。そして刺繍を思いついたらシンプルな線で図案を描き始めます。

お花は好きだけれど絵を描いたりはしないという植木さんは、「ひと針でもふっくらとした花びらの印象を形づけられるリボン刺繍だからこそ、表現することができた」と話します。


▲実際に刺しているところを見せていただくと、柔らかなタッチで針を進めているのにとってもスピーディ。リボン刺繍は、糸の刺繍よりもずっと短時間ででき上がるのもオススメしたいポイントだそう。

 

ひと針でひとつの葉が生まれるのが楽しい

実は、植木さん自身が刺していていちばん楽しいパーツは、葉っぱなのだそう。

「ひと針でひとつの葉がすぐに生まれてくれるのが楽しくて。そのあと花びらを仕上げると、私の手元で“お花が咲いた!”って、嬉しくなります」

リボン刺繍自体はひと針で立体的に仕上がるので、図案自体は難しくなく、とてもシンプル。それでも作品にお花のみずみずしさが感じられるのは、ほとんどのデザインがお花だけでなく、それぞれの特徴をとらえた葉っぱや茎もリアルに描かれているからかもしれません。

グリーンはグリーンでも、微妙に違う色味のリボンの中から、お花や地の生地に合わせて吟味する。「お花は色味を本物に近づけないと不自然になってしまいますが、葉っぱはグリーン系であればあまり違和感は出ないので、作品全体のイメージの方を重視して色をチョイスしています」

 

花言葉をこめた「ハナコトバブローチ」

poritorieの作品として初めて友人のショップに出品したのは、一輪の花を葉と共に刺繍した「ハナコトバブローチ」。大切な人への贈り物としてもおすすめしたいという、想いのこもった作品です。

はじめは6種類ほどしかなかった「ハナコトバブローチ」も、いまでは14種。リボンの刺し方もそれぞれ違い個性があって、すべてを揃えたくなる可愛さです。

「ハナコトバブローチ」は、お出かけの際は胸元を飾り、家では愛らしいインテリアオブジェに。まさしく、暮らしをいろどる“小さな草花”として心をなごます存在に。

花言葉のラベルが貼られたアースグレーの小箱に、ちょこんと収まる「ハナコトバブローチ」。この姿で、デザインとコンセプトに魅せられた誰かの手元へと渡っていきます。

 

渋めのカラーを調和させ、好みの雰囲気に

poritorieらしさとして忘れてはならないのが、その色合い。花といえばピンク、白、黄色といった明るい色を思い浮かべがちですが、植木さんがよく使うエンブロイダリーリボンのほとんどは、素人目に見ればベージュっぽい色たち。ピンクがかったベージュ、黄味を帯びたベージュ、深い赤を思わせるようなベージュ・・・。


▲「蔦と野菊のがま口ポーチ」の図案を生成りのリネンに刺したもの。ボタニカルな柄がグレーベージュのトーンで落ち着いた雰囲気に。

リボン単体で見ると色味があまり感じられなくても、植木さんが刺繍をすることでパッと可憐なお花となり、それでいてナチュラルな生地にそっとなじむのです。

 

いつも頭の中にあるのは、愛すべき大切なものたち

アンティークやお花がporitorieの原点ですが、植木さんが大切にしているものはそれだけではありません。作品やお知らせをアップしているインスタグラムには、美味しい焼き菓子や大切な友人、愛おしいお人形などもたびたび登場。

実はタマゴをモチーフにしたアイテムにも目がないという植木さん。前編でも紹介した、友人とのコラボレーションで制作したピンクッションも、エッグスタンドのような形でした。お気に入りのタマゴオブジェが、チェストの上にポコポコと並んでいます。


▲アメリカで購入したというペールブルーのチェストに「ミモザのミニバッグ」をディスプレイ。紺色のベースとこがね色の花びらのコントラストが存在感を生んでいる。

チェスト上のフレームは、イラストレーターの友人に描いてもらった愛犬のポリナ。ブランド名であり、作家名でもある「poritorie」は、フランス語っぽい響きですが、実はポリナの愛称ポリちゃんと植木さんの名前を一緒にした「ポリとリエ」から生まれたのです。

 

世界観をたっぷり詰め込んだ『リボン刺繡&小物たち』

初めての著書『リボン刺繡&小物たち』には、アンティークの雰囲気と自然のナチュラルさが同居するご自宅の空気感がそのまま現れています。そして、そこに登場するのは、その季節になると必ず見かける身近な草花たちです。


▲表紙は、お気に入りの花や実を刺したベロアリボンを深みのあるユーカリの葉とコーディネート。このリボンは「実と花のかご bag」に使用された図案のもの。


▲細やかな花びらが印象的な「あじさいの巾着」。手に取るとふんわりと立体的で、摘んできた一輪がおさめられているかのよう。

「以前習っていたお花の先生から、“生けるときは自分がお日様だと思って。外に咲く自然な草花の姿をおうちの中に連れてきてあげて”と教えられたことがありました。その言葉が今もずっと胸にあるんです。その気持ちを刺繍にも込めて、生地の上にお花を咲かせよう!って、いつも考えています」


▲「蔦と野菊のがま口ポーチ」。図案違いで小さながま口にリボン刺繍を施すporitorieオリジナルのキットも制作、手芸店などで販売されている。

ふんわりと優しく刺していくリボン刺繍のように、常に柔らかな雰囲気で笑顔が素敵な植木さん。刺繍をしている幸せそうな姿がとても印象的でした。それはきっと、ひとつひとつをこだわりぬいたお気に入りの空間で過ごし、つくり出すものも徹底的な自分好みに仕上げているからなのでしょう。

植木さんのフィルターを通し生地の上に美しく花開くリボン刺繍に、今後も期待が高まるばかりです。

 

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