軽やかで華やか。アートという伴走者を味方につける。「keico fujita コンテンポラリージュエリー展」2019.6.17(Mon)-6.22(Sat)

写真協力:ギャルリーワッツ  文:つくりら編集部

ジュエリーを選ぶなら、天然石や純金でないと・・・。歳を重ねるにつれてそんな気持ちが強くなっていました。刻々と失われていく「若さ」という特権。その穴を埋めるのは「天然素材」しかない。そう思い込んでいたのです。[keico fujita]のコンテンポラリージュエリーに出会うまでは。


▲タグピンジュエリーの「dodo(ドゥドゥ)」。木のパーツがついたネックレスは漆作家のすはらゆうこさんとのコラボシリーズで、今回初登場。

金沢生まれ金沢育ちの藤田圭子さんが、最初に手がけたのは九谷焼。陶芸に勤しみながらジュエリーも制作していた頃、素材を探しに出かけたホームセンターで、たまたま値札用のタグピンを見つけます。

「ジュエリーにするにはちょっと重い、カチカチするっていうのを、もう少し何かないかなという思いで素材を探していたときに、このタグピンに出会っちゃったんです」

ポリプロピレン製の工業製品であるタグピンは消耗品。洋服から切り取られた瞬間、お役御免で捨てられる。その悲しい末路からひょいとすくい上げ、アルケミストよろしく、美しい姿に変身させてしまったのが藤田さんのジュエリーなのです。

2011年、コンテンポラリージュエリーのブランド[keico fujita]を立ち上げ、代表的なシリーズとなる「dodo(ドゥドゥ)」が生まれます。繊細な糸と葉っぱのような面の集合体。 これがタグピンなの?と知ってびっくりの美しさです。パーツの接合はすべて手作業、ひとつひとつ丁寧に成型して形づくられています。


▲「dodo O(ドゥドゥ オー)」のball。タグピンを丸めてボールのように仕立てたネックレス。

「藤田圭子さんは、身にまとうアートとして装飾品を捉え、コンテンポラリージュエリーを展開しています。誰もが日常生活で手に取る素材をジュエリーの世界にまで昇華させる、そのギャップが実にユニークで感度が高い。それは藤田さんが、『作品は美しくエレガントであること』に重きをおいたアプローチがなせる技だといえます」。そう説明してくれたのは、「ギャルリーワッツ」の山本詩野さん。

「dodo」から始まったアートジュエリーは、タグピンの可能性をさらに広げ、工業製品どうしのコラボレーションも生まれました。そのひとつが「dodo TUBE(ドゥドゥ チューブ)」。水道の蛇口から繋いで用いることが多いホースをカットし、タグピンで繋いだ斬新な作品です。


▲「dodo TUBE」。PVC素材なのにガラスのように輝いている。

「ギャルリーワッツ」での作品展は今年で4回目。「柔らかさとかたさ、線と立体など、反対側にある要素の遊びを取り入れたネックレスやイヤリング、ブレスレットなど、さまざまな遊びからおしゃれの楽しさが味わえます」(山本さん)。

毎回新しいことに挑む藤田さんの今年の試みは「dodo SHeeT(ドゥドゥ シート)」。いろいろなシートとタグピンのコラボレーションです。


▲タグピンとシートを組み合わせた「dodoSHeeT」。

デザイナーのヨーガン レールは、海辺にたどり着いた漂着物を集めてランプを制作しました。プラスチックの廃品がここまで美しい実用品になるなんて・・・! 2015年、東京都現代美術館で見た幻想的なランプは衝撃的で、全身に鳥肌が立ったのを覚えています。

[keico fujita]は、捨てられる運命のタグピンをジュエリーとして世の中に美しく放ちました。廃品であれ、アップサイクルであれ、そこにアートの底力を強く感じます。大事なのは、素材、じゃないのかもしれない。なぜなら、タグピンのジュエリーを見た瞬間、素材云々はどこかに吹き飛んで、ただただその造形の美しさと軽やかさに心を奪われてしまったのだから。「あ、これ、着けてみたい!」と。

身にまとうと、幸せな高揚感に包まれる。こんなこと、最近なかった。齢とともに“下がりがちな口角”もきゅっと上がってくれそうな・・・。

期間:2019.6.17(Mon) – 6.22(Sat)
場所:ギャルリーワッツ
東京都港区南青山5-4-44-103
https://www.wa2.jp
開催時間:12:00~19:00(最終日は17:00まで)
問い合わせ先:03-3499-2662(ギャルリーワッツ)

会期中、藤田圭子さんも在廊予定です。

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