ウクライナ, ビーズ, ワークショップ, 伝統, 手仕事, 春
ウクライナ, ビーズ, ワークショップ, 伝統, 手仕事, 春
更新日: 2018/05/10
3月にご紹介したイベント、「春 ウクライナ事始 お祝いの卵・プイサンカを作ろう」。嬉しいことに、つくりら記者もワークショップに参加させていただきました。その様子を前編、後編2回にわけてご紹介します。前編では、プイサンカをはじめとするウクライナの手工芸のお話です。
撮影:奥 陽子 取材・文:つくりら編集部 協力:ワサビ・エリシ
「春 ウクライナ事始」の会場は、東京・羽根木にある針仕事の専門店「ワサビ・エリシ」さん。店主、赤松千里さんの視点で選ばれた品々は、“古くて新しい”ものばかり。気づきの多い企画展は毎回とても楽しみです。今回、スポットがあたったのは、なんとウクライナ! ビーズ織り、卵細工、麻紐細工と、ウクライナ出身の3人の作家による伝統的な手工芸品が披露されました。
▲「ワサビ・エリシ」さん2階のギャラリースペース。右奥に掛かっているのは、ウクライナの伝統的な刺繍タオル「ルシュニク」で、祭壇の飾りや冠婚葬祭地の飾りなどに使われるそう。中央はナタリャ・コヴァリョヴァさんが結婚するときにつくったもの。
ウクライナは、東にロシア、西にハンガリーやポーランドといった東ヨーロッパの国々が隣接し、黒海を挟んでトルコと向き合う、ヨーロッパ一、大きな国。その面積は日本の約1.6倍です。
この土地に人類が現れたのは旧石器時代初期、約30万年前! 手工芸においてもその歴史は古く、古代から存在するものもあったそう。こちらの人形、「モタンカ」もそのひとつで、始まりは旧石器時代ともいわれています。
▲お守り人形の「モタンカ」。ナタリャ・コヴァリョヴァさん作。
十字に結ばれた顔は、古代から太陽神のサインを表しているのだとか。女性の知恵と家族の絆を表したお守り人形で、娘のために、母親や祖母が着ていた服のはぎれや伝統的な刺繍の布を糸で巻きつけてつくるそう。
人形を持つ人を災いから守り、幸せや富を呼び込み、また衣の一部をさわって願い事をすると、夢を叶えてくれるといわれています。
ヨーロッパの穀倉地帯として知られているウクライナ。遠い昔、学校で習った頃は、たしかソ連の構成国だったような・・・ということは、文化もロシアに近いのでしょうか?
「ロシアというよりも、東ヨーロッパの国と似ています」。そう説明してくれたのは、プイサンカ作家のナタリャ・コヴァリョヴァさん。
▲「プイサンカ」を手に取り、丁寧に解説してくれたナタリャ・コヴァリョヴァさん。1994年に来日以来、ウクライナの歴史や文化、伝統などを広める活動をしている。
「プイサンカ」は、ろうけつ染めでつくる卵細工で、ウクライナで古くからつくられてきた伝統的な手工芸品。複数になると「プイサンキ」と呼ばれ、日本では「ピサンキ」という言葉で呼ばれることも。イースターエッグの原型ともいわれていますが、イースターだけでなく、お正月や結婚式などのおめでたい席に、魔除けとして、各家庭でつくったりするそう。
▲草木染めで仕上げた作品は、しっとりと落ち着いた色合い。
ウクライナでは知らない人はいない国民的手工芸だと思いきや、ナタリャさんがプイサンカを知ったのは、ほんの10年ほど前のことだそう。
ウクライナでは、1922年にソビエト連邦の構成共和国になって以来、1991年に独立するまで、ウクライナ独自の言語や文化を学ぶことができなかったとナタリャさん。納得すると同時に衝撃を受けました。
「友人にプレゼントされて初めてプイサンカを知り、あとからこれがウクライナの伝統的なクラフトだと知りました。その後、本などを見ながら独学で古代模様などを学び、やがて日本でも教えるようになりました」
プイサンカにはさまざまなモチーフが描かれていますが、なかでも目を引いたのはこの美しい鳥!
「鳥を描くと、その鳥が願い事を神様へ届けてくれると信じられているのです」とナタリャさんが説明してくれます。会場を見渡すと、プイサンカ以外にも鳥を発見!
▲取材当日、お目にかかれなかった、もう一人の作家、ナタリャ・ジュロバさんの作品で、麻紐細工の鳥。
「春になるとウクライナでは、特別なクッキーをつくったり、鳥の形をしたおもちゃをつくったりします。鳥は春の訪れを告げるもの、幸運をもたらしてくれる存在なのです」
ビーズ織りの作家はマクシム・マメーリンさん。ビーズ・アートが得意だったお母さんの影響でつくり始めたそうで、パソコンを使って緻密な図案を作成し、伝統的な幾何学模様から現代アートのデザインまで巧みにつくり上げていきます。
▲マクシム・マメーリンさん。ウクライナ西部の伝統的なデザインの「ゲルダン」ほか、民族的モチーフやオリジナルのピアス、ブレスレットなどのアクセサリーを制作。
こちらは「ゲルダン(gerdan)」といって、ウクライナ西部ガリツィア(ハルィツィナ)地方で生まれた伝統的な首飾り。ウクライナ女性の民族衣装のアクセサリーであると同時に、首元、胸元を守る魔除けの意味もあるそう。
シンプルな洋服につけるとひと際映えます。ウクライナではハレの日は男性も身につけるのだとか。
伝統的なパターンと色合いのネックレスもゲルダン。「このような形のものは、シイランカ(sylyanka) と呼ばれていて、まさに正統派のウクライナのネックレスです。サンドレスによく似合いますよ」とマクシムさん。
菱形や三角形のピアスはフォーマルスタイルで、正装時にも着けられます。色づかいによって愛、幸せ、成功など、様々な意味を持ち、お守りとしても親しまれているそう。
後編では、プイサンカづくりのワークショップレポートをご紹介します。
ナタリャ・コヴァリョヴァ
1994年に来日、語学学校での外国語教師などを勤める。2006年より、横浜市教育委員会のIUI(国際理解講師)として横浜小学校でウクライナ文化を教える。2011年、プリサンキ教室を設立。様々なイベントやフェスティバルを開催し、ウクライナの歴史や文化、伝統などを広める活動をしている。
facebook: https://www.facebook.com/kovalova.natalya
URL: http://dzherelce.github.io
マクシム・マメーリン
ウクライナのキエフ出身。ウクライナ工科大学を卒業し、電気機械技術者の学位を持つ。2009年からビーズ・アートが得意だった母の影響でビーズ作品をつくり始める。2015年来日後はウクライナ西部の伝統的なデザインの「ゲルダン」ほか、民族的モチーフやオリジナルのピアス、ブレスレットなどのアクセサリーを制作。2018年5月にウクライナに帰国。
facebook: https://www.facebook.com/maksymsjewelry
WASABI-Elişi (ワサビ・エリシ)
トルコのアジア地方、アナトリアの手仕事の品を中心に扱う、針仕事の専門店。作家ものでもない、手芸でもない、お土産ものでもない、トルコの手仕事の品々を、店主の赤松千里さんが地方のバザールや小さな店に足を運び、直接買い付けている。針仕事のキーワードで、パラグアイの「ニャンドゥティ」や青森のこぎん刺しなどのワークショップも定期的に行っている。店名の「WASABI-Elişi(ワサビ・エリシ)」は、清々しい青い葉「わさび」と、トルコ語の「手仕事」=「Elişi」を合わせた名前。
156-0042 東京都世田谷区羽根木1-21-27 亀甲新 ろ60
営業時間:11:00~17:00(木・金 13:00~19:00)
定休日:火曜日(祝日は営業)
TEL : 03-6379-2590
http://wasabielisi.com