ささきみえこさん(後編)|作品づくりの面白さは、この素材で、この技法で、どう表現するかということ。

ささきみえこさん(後編)|作品づくりの面白さは、この素材で、この技法で、どう表現するかということ。

幅広い表現方法で活躍しているささきみえこさんへのインタビュー。前編では、著書『フェルトで作る 世界のお守りチャーム』のお話や手芸をはじめたきっかけについて伺いました。後編では、刺繍だけでなく彫刻や版画などの表現についてもお伝えしていきます。

撮影:奥 陽子  取材・文:酒井絢子  撮影協力:Maison de Chapeau* Ulala Koroku

『フェルトで作る 世界のお守りチャーム』の著者、ささきみえこさんの作品には動物がよく登場します。その動物たちは、みんな表情が豊かでユニークなキャラクター性を感じられるものばかり。

 

今にもおしゃべりを始めそうな動物たち

「アイデアスケッチをする段階から、この子はこういう性格で、どういうところに住んでいて・・・と考えていたりしますね。中には悪〜いことを考えていそうな目つきをしている動物もいたり(笑)」


▲ワークショップやカルチャーセンターの刺繍講座のためにつくられた刺繍図案の数々。野原の小さな生き物たちからはセリフが聞こえてきそう。


▲アイデアスケッチ用のノートをめくるささきさん。暮らしの中でアイデアが浮かぶこともあるけれど、基本的にはアイデアを練るために机に向かう時間を設けているそう。


▲ごく普通の、罫線の入ったノートがいちばん描きやすいんだとか。ラフではあるけれど、すぐにでも図案になりそうな動物スケッチがいっぱい。


▲取材班みんなの心を一瞬で掴んだ、ちょっとクセのある目つきと動きのアナグマさん。現在制作中の刺繍図案本のアイデアスケッチだそう。

「モチーフを人間にしてしまうと、見た人が笑えない感じになってしまうような表情も、動物ならクスッと笑えちゃう、そんな感じが好みなのかもしれません」

 

刺繍の仕事はネットショップから始まった

ささきさんの刺繍の仕事は、ご自身が15年ほど前にオープンさせた布のお店「はなはっか」で図案を出品したのが最初。当時イラストレーターとして活動していた際のクライアントが、その作品を見て気に入ってくれたことで、少しずつ刺繍の仕事が増えていったそう。


▲魚が描かれた箱は、がま口をつくるための道具をまとめたセット。刺繍をするための道具を入れているのは、もともと和菓子が入っていた黒いカゴ。刺繍枠は、ささきさんのお祖母さま、セツさんから譲り受け、長年愛用しているもの。


▲動物の毛並みのステッチは「ロング&ショート」。図案には細かく記せないステッチなので、刺繍教室の生徒さんには個別に図案に指示を書き込んだりして丁寧に教えているそう。どんぐりの立体感は、刺したところにさらに糸を重ねることでぷっくりと表現。

今ではカルチャーセンターで講師を務めたり、ショップ&ギャラリーの「川村雑貨店」(高知)や「shironeko」(鎌倉)に販売用の作品を出品したり、刺繍の仕事は途絶えることがないほど。それでも彫刻や版画の制作、イラストの仕事も続けているというから、その多才さには脱帽です。


▲読売カルチャーでの刺繍講座用キットの一式。刺繍教室では生徒さんからリクエストを聞いて図案を考えることもあるそう。カルチャースクールには継続して1年以上通っている方もいるんだとか。


▲自身のネットショップ「はなはっか」で取り扱っている布。ささきさんが問屋で実際に見て触れて仕入れた布ばかり。布の種類は多岐に渡り、海外のプリントものも。

 

表現方法は違っても、作りたいものは同じ

大学では美術工芸科で彫刻を学んだというささきさんは、実は高校三年までは音楽科を目指していたというからまた驚きです。

「急にいやになっちゃったんですよね(笑)。ちょうどそのときに近所に絵画教室がオープンして、なんとなく通うようになったら、ピアノのレッスンよりデッサンの勉強の方が面白くなってきて。美術科に進もうと決めました」


▲手のひらほどの背丈のブロンズ像。2012年道展(北海道美術協会公募展)に出品されたもの。タイトルは「森へ」。

彫刻を専攻したのには、特殊な技術を身につけたいと思ったから、という理由もあったそう。

「絵なら一人でもどこかで描けるような気がしたので、個人ではできない技法を教えてもらいたいと思ったんです。卒業してみると、技法だけでなく、モノの見方・捉え方や、考えたものを具体的な形にするプロセスがきちんと鍛えられたなと感じています。それは刺繍やイラストの作品にも生かされている気がしますね」


▲銅版画の作品。小さいものは、水彩で着色も加え、イラストのように可愛らしい感じに仕上げている。アーティスティックな左下の2枚は、展覧会に出展したもの。

大学卒業後は中学校に美術教師として勤めていたそうですが、東京への引っ越しがきっかけで退任、興味があった銅版画をやってみようと版画工房へ通い始めたそう。並行して、イラストを仕事にするべく営業に行き、雑誌や文芸誌の挿絵を描くようになり、今に至ったそう。幅広い技法で表現するささきさんには、「これは版画で」「水彩のイラストで」といったさまざまな仕事が舞い込んでくるようです。


▲イラストを手がけた『草の辞典』(雷鳥社)。ささきさんがお気に入りだという、水彩で仕上げた扉のページ。

「技法はいろいろですが、つくりたいと考えている根本的な部分は、たぶん一緒なんです。ただ銅版画や刺繍は、平面的で色を多く使えるからこそより物語的な世界を表現しやすい。彫刻は立体だからこそ成立させられる形があるし、ちょっと哲学的になっていく、というような違いがありますね。この素材で、この技法で、どう表現するのか・・・というのも面白いところだったりします」

幼い頃から馴染んだ手先の器用さと、アカデミックに学んだ知識や技術、そして何よりつくることへの意欲が、ささきさんの多才な表現力の礎なのでしょう。各方面での今後の活躍がますます楽しみです。

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