鳥待月さん(後編)|指先よりも小さなパーツを、ひとつひとつ丁寧に。繊細なつまみ細工は傑出した手仕事!

鳥待月さん(後編)|指先よりも小さなパーツを、ひとつひとつ丁寧に。繊細なつまみ細工は傑出した手仕事!

『小物づくりからはじめるやさしいつまみ細工book』の著者、つまみ細工作家の鳥待月(とりまちつき)さんのインタビュー。前編ではつまみ細工の魅力や道具・材料、著書の掲載作品をご紹介しました。後編は実際の制作風景をまじえながら、ワークショップや今後の活動についてお伝えしていきます。

撮影:奥 陽子  取材・文:酒井絢子  取材協力:シラハト商店

指先から軽やかに生まれる小さな花々

鳥待月さんがつまみ細工をはじめた頃は、どの工程も楽しくて楽しくて、寝食を忘れるほどだったそう。現在は作品の販売やワークショップも増え、数をこなしていく作業も多くなりましたが、事務や梱包を合間に挟みながらマイペースで作品づくりを続けています。「最近は特に染めの時間に癒されています。毎回全く同じものはできないからワクワクしますし、作業工程も楽しいんですよね」


▲取材中に制作してくれた淡い水色の梅の花。大きさは直径2.5㎝ほど。梅の形はワークショップでもよく課題になるモチーフ。

幼い頃から手芸や工作が好きだったというだけあって、これまでいろいろなハンドメイドを経験してきた鳥待月さんですが、中でもつまみ細工がいちばん自分に合っていたと言います。

「羊毛フェルトは針を指に刺してしまって挫折。UVレジンもやったけれど飽きてしまって・・・。UVライトは今、家のどこかに」と笑います。つまみ細工制作が本職となっている今でもいろいろなハンドメイドに興味が尽きず、目下タティングレースのキットに挑戦しようと思っているのだそう。

鳥待月さんの経歴を伺うと、大学では経済学を学び、塾講師を務めたと思えば、オーストラリアに留学したり。その経歴はハンドメイドとはかけ離れたものばかり。学生時代の友人には「そんな特技があったんだ!?」と驚かれているそう。しかし作品の完成度の高さと、鮮やかな手さばきを拝見すると、天性の職人!と思わざるを得ません。


▲ピンセットを使って生地を折りたたんでいく。生地は市販のキュプラの水色を使用。ピンセットは浅草にあるつまみ細工専門店「つまみ堂」のつまみ細工専用のもの。


▲折りたたんだ生地(つまみ)の裁断面に、ボンドをつけ、土台に葺(ふ)いていく。つまみ細工では、つまみに接着剤をつけ土台に配置することを「葺く」という。


▲花びらのつまみをすべて土台に葺いた様子。指についたボンドはポロポロとこすり合わせて取るのがベスト。ウェットティッシュなどを使ってしまうと、せっかくボンドが乾いた部分が湿ってベチャッとしてしまうそう。


▲花心となるペップは、芯を2〜3mm残し、糸切りバサミで切り取って使う。


▲ペップの数は希望のデザイン次第で増減。ペップ好きというだけあって、この工程で30分くらい費やしてしまうこともあるんだとか。バランスを見ながらピンセットで載せていき、指先で整えれば、梅の花の完成。

 

心ときめく可憐な新作

「小さいものが好きなんですよね」とつぶやきながら並べてくれたのは、優しいピンクの色合いが引き立つ可憐なお花の作品。この春の新作です。


▲束ねられているのはチューリップなど春の花。ヘアピンになっているのは小さなタマバラやマーガレット。

新作のつまみ細工に使われているのは、前編でご紹介した着物の裏地を染めたもの。いろいろな色に染めた生地の中から、ピンク系をチョイス。「せっかくいただいた生地をどう活用しようかと考えていたときに、季節的にチューリップだなと思って、ブーケもつくってみました。大好きなペップにも存在感を与えてあげたくて、お花に添えて。このブーケはまだ金具が付いていないので、いずれアクセサリーかブローチに仕立てたいと考えているところです」


▲ブーケの葉の部分は着物の余り布を貼り合わせて中にワイヤーを入れてつくったもの。3輪の小さなブーケはイヤリングに。

 

イベントやワークショップは、つまみ細工の魅力を伝える場

原宿デザインフェスタギャラリーでアーティストの友人と共に展示をしたり、「Creema Spring Market」、「minneのハンドメイドマーケット2019」などに出展するなど、イベント活動も積極的に行っている鳥待月さん。対面販売だとハンドメイドの魅力を直接伝えることができると話します。

「声をかけて販売するのは苦手だけど、人とお話するのは好きなので、作品のことを直接お伝えできるのは嬉しいですね。それに、私自身があまりアクセサリーをつけるタイプではないので、“どのくらいの大きさが使いやすいですか?”“どんなアイテムが欲しいですか?”というように、お客さんの意見を聞くことも。それを踏まえて、みんなから欲しいと思っていただけるものをつくりたいですね」


▲繊細で柔らかな布製のつまみ細工は、潰れ厳禁。フラットな作品以外は必ず箱入りで販売している。

ワークショップでつまみ細工を体験していただくと、意外と簡単だとおっしゃる方も多いと鳥待月さんは言います。参加者は、お母さんと娘さんの親子連れや、最近では外国人の方もちらほらいらっしゃるとか。そしてそのほとんどの方が、きちんときれいに完成させることができるそう。

今後は、横浜、札幌、福岡と、各地でのワークショップや、カルチャースクールで引き染めの講座も予定しているとのこと。「イベントやワークショップで全国のいろんなところに行けるのは楽しいです!美味しいものも食べられるし(笑)」。制作を続けながら全国を飛び回る多忙なスケジュールでも、ほがらかな笑顔とその話しぶりから充実した毎日であることが伺えます。


▲人気の「ひな菊ピアス」。単色よりもミックスカラーの方が人気が高いそう。この小ささは自分ではつくれないから、とワークショップ終了後に購入する人も多いんだとか。


▲販売の際は、小さな箱におさめて。写真一番上の、絶妙なニュアンスカラーのものはコーヒー染めの布を使用しているそう。

ほとんどのワークショップでは、終了後に「おみやげセット」という、ピンセットとボンドさえあれば自宅でもできるようなキットを参加者にプレゼントしているそう。「本気で覚えたい人には復習も必要ですし、お友だちにもオススメしてもらえたら嬉しいですし。中には、ワークショップで覚えた内容を、キットを使ってお母さんに教えてあげるという方もいらっしゃいました」

 

全国の作家さんとのつながりを形にして伝えたい

最後に、今後取り組みたいことを伺ってみると、意外な答えが返ってきました。

「自分発信の本をつくりたいんです。つまみ細工に限らず、陶器の作家さんとか私が好きな作家さんの作品と、鳥待月の作品、それに珍しいペップとかを一緒にスタイリングして写真を撮りたくて。それを見てくれた人が作家さんやメーカーさんとつながることができるような、そんな企画をしたいと思っています」

鳥待月さんの活動やインスピレーションには、各方面で活躍している人たちの姿が少なからず影響していて、鳥待月さんもまた、彼らの作品の魅力を多くの人に伝えたいと考えているようです。

また、遠方のつまみ細工作家さんに会いに行ってみたい、とも。「作品の交換やSNSで交流はあっても、実際にお会いしたことがなかったりするので。一度お会いしてお話してみたいですね」


▲著書の掲載作品「春駒」のガーランドに使用されたチューリップと「千載」のかんざしになった百合。器は「Handmade In Japan Fes」で出会い、鳥待月さんが大ファンになったという陶器作家atelier yaji2さんもの。


▲上の写真と同じくatelier yaji2さんのパン皿には、「春駒」のガーランドに使用したクローバーと、「八千代」のブックマーカーに使用した向日葵。

これからつまみ細工で挑戦してみたいことは、ひだつまみなどの技法を使った、ポピーやアネモネの花。そして「鳥待月」の由来にもなっている鳥をモチーフにした作品に取り組んでみたいと言います。

「鳥はもちろん、猫とかも好きすぎて・・・、なかなか踏み出せないんです。周りの人からも、つくらないの?と言われるから、アニマルモチーフはやらなきゃいけない課題ですね! まずはあまり好きじゃないカエルとかからつくってみようかな(笑)」

ほがらかなお人柄で、イベントやワークショップに引っ張りだこなのも納得の、鳥待月さん。その華奢な指先から生み出されるつまみ細工は、現代女性の装いにもすっと馴染んで、これからも可憐なときめきを与えてくれることでしょう。

 

 

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