鳥待月さん(前編)|つまみ細工は日本の伝統工芸。だからこそ、普段づかいに欲しくなる、心ときめくアクセサリーに仕立てます。

鳥待月さん(前編)|つまみ細工は日本の伝統工芸。だからこそ、普段づかいに欲しくなる、心ときめくアクセサリーに仕立てます。

かんざしや髪飾りとして知られるつまみ細工。『小物づくりからはじめる やさしいつまみ細工book』の著者、鳥待月(とりまちつき)さんにつまみ細工の魅力を伺いました。前編・後編の全2回でお伝えします。

撮影:奥 陽子  取材・文:酒井絢子  取材協力:シラハト商店

つまみ細工は江戸時代頃から伝わる日本の伝統工芸。でんぷんのりや薄絹といったなじみのない材料を使う昔ながらの手法は、ちょっと敷居が高そう・・・。

 

現代女性が普段づかいできるものを

鳥待月さんが手がけるつまみ細工は、デザインや色づかいはもちろん、その手法も現代的。接着には木工用ボンド、布染めにはペンなど、身近なものを用いて、初心者でも気軽に挑戦できるよう工夫を凝らしています。

「数あるハンドメイドの中でも、実はつまみ細工は挑戦しやすいジャンルだと思いますよ」と鳥待月さん。伝統的なものだからこそ、現代の人に知ってもらえないと廃れていってしまう。そんな危惧もあり、まずは「つくりやすさ」と「普段づかいできるもの」を心がけ、より多くの人につまみ細工のことを知ってもらおうと腐心しているのです。


▲風情ある美しい写真と共に、ひとつひとつの工程をわかりやすくレクチャーした『小物づくりからはじめるやさしいつまみ細工book』


▲細かな作業にあつらえ向きの、細く美しい指が印象的な鳥待月さん。開いているページの作品は、ほんのりピンクに色づく桜をあしらったアクセサリーのセット。

現代女性が普段づかいできること。その思いは生地選びにも表れています。「伝統的なものだと羽二重(はぶたえ)という正絹の生地を使うのですが、ツヤが出ると普段づかいには向きません。それにすごく薄くて柔らかいので型崩れしやすく、手慣れた人でないと使いにくいんです。私は実用性も重視しているので、普段づかいしやすいようコットンを使って仕上げたりしています」

制作アイテムも「つまみ細工は和装小物」といったイメージを越えて、ピアスやネックレスなど、今を生きている女性が使いやすいアクセサリーが多いのが特徴です。

 

「丸つまみ」と「剣つまみ」でつくれるモチーフ

『小物づくりからはじめるやさしいつまみ細工book』は、はじめてでも気軽につくれるよう、パーツのつくり方はつまみ細工の基本である「丸つまみ」と「剣つまみ」と呼ばれる種類に絞り込まれています。


▲著書に登場した主な花びらの数々。鳥待月さんが最近のお気に入りだという、マットな陶器のお皿に乗せて。

たとえば、梅も桜も「丸つまみ」が基本。菊は「剣つまみ」が基本。それらを応用したつまみ方や、それぞれの組み合わせによって、花の種類や表情が大きく変わっていくのです。


▲くす玉を半分にしたような形から「はんくす」と呼ばれている、つまみ細工の定番の形。グラデーションカラーで艶やかさを放つ作品の名前は「手習子」。

正方形にカットされた生地をピンセットで折りたたみ、小さな花びらをひとひらずつつくっていくつまみ細工。どんな人がつまみ細工をやるのに向いているか聞いてみると、「歯科衛生士さんや基盤づくりをしているような理系の人ですね(笑)」との答えが。「ピンセットづかいに慣れていれば、つまみ細工もすぐに習得できると思います。実際にワークショップでも歯科衛生士さんはとっても上手でした」

 

著書のコンセプトは「THE 京都」

著書の制作にあたっては、編集者側から「THE 京都」というイメージで、と依頼があったそう。「レトロな雰囲気を持ちながらも、古くさくない現代的なつまみ細工を展開したい」。そんな編集意図を汲み取るため、試行錯誤を繰り返したと言います。


▲桐箱にお気に入りの花々を生けたボックスフラワー「花文箱」。こちらはマーガレットや菊が中心ですが、「いずれ野の花をモチーフにしたボックスフラワーもつくりたい」と鳥待月さん。


▲「吹き寄せ、秋」という名前がついた紅葉の葉。根元から外側へグラデーションになっているのは、本には掲載されなかった試作品。花びらひとつひとつがすごく小さいからこそ、色にムラがあると面白い仕上がりになるそう。

「私が普段からつくっているものは和風のものが多くないので、編集者さんの意図を汲み取ったデザインや色を考えるのがいちばん難しかったですね。私はデザイン画が描けないのでイメージを共有するのも大変でした」

口頭では繊細な立体作品の説明をするのも難しく、結局、イメージを伝えるために現物をつくり、直接確認してもらう作業をしていったそう。「でも試作品にやり直しがあるとすごく時間がかかってしまうので、次回があれば絵が描ける友人にデザイン画をお願いしようかなと思っています」


▲水仙の花を円形に並べたブローチ「清姫」。本で見るよりも、ずっと小ぶりで儚げな印象。花の内側の丸つまみに使っている布はわずか7mm四方。


▲記念の日に身につけたい、コサージュの「胡蝶」。「コサージュは組み上げが難しいと言う人が多いのですが、工作感覚でつくれるので初心者の方にも挑戦していただきたいですね」

「吉野山」、「揚巻」、「八千代」、「小町」・・・。本の中ではそれぞれの作品に、古都の風景や文化を思い起こさせる名前がついています。これらは抽象的な名前をつけたいという編集の意向によるものだそう。名前のイメージにふさわしい古民家で撮影されたという美しい写真が作品を際立たせる、情緒的な一冊となっています。

 

使いやすさを重視した、手に馴染んだ道具たち

普段よく使う材料などを見せてもらうと、とてもカラフル。箱に入った状態でも中身がわかりやすいよう、半透明のボックスに入っています。「ケースは、ちょうどいいものを見つけたよ!と友人がプレゼントしてくれたもの。それまではカットした生地を縦に入れていたのですが、このケースにしてからぐっと選びやすく、取り出しやすくなりました」


▲カット済みの布、ペップ、アクセサリー金具と、ボンド、ピンセットなど。使いかけの花びらなどは一つの箱にまとめて。ボンドは細ノズルタイプを使用すると、小さな花びらも的確につけることができて便利だそう。


▲ワークショップで使用する布は、友人におすすめされた小物ケースに。ハート型の缶に入っているのはつまみ細工で土台となる「平土台」。

つまみ細工がはじめての人には、ふんわり感が出やすいちりめんがおすすめだそうで、ワークショップ用にたくさんの色を用意。「生地は北海道に品揃えの多いお店があり、里帰りのたびに買いに行っています」

 

つい集めてしまう、バラエティ豊かなペップ

鳥待月さんにとって選ぶのが楽しい素材が、花芯に使うペップです。さまざまな種類があるのですが、手芸店で扱っているのはほんの一部。ネットショップでくまなく探し、ユニークなものを手に入れます。初めて見つけたペップが良質なものであれば、ロットも問わず、即購入してしまうのだそう。

「“ペップ好き”なので、色とりどりのペップを見るとテンションが上がってしまいますね(笑)。作品づくりに使うだけでなく、同じようにつまみ細工を楽しんでいる人向けに、イベントの時に小分けにして販売したりもします」


▲在庫のほんの一部だというペップ。日本製、中国製、フランス製のペップを、小分けにしてラベルをつけて収納。


▲手芸店ではほとんど見かけることのできない、ガラス製のものや微妙なニュアンスカラーのペップも。

同じように見えても、品質に違いがあるというペップ。粒の大きさや色ムラなど良し悪しがあるそうで、質のよいものを厳選して集めていると言います。作品のイメージに合う色が見つからないときには、マニキュアを使って白いペップを染めてしまうことも。

 

引き染めで生み出す、柔らかなグラデーション

布の色にも並々ならぬこだわりが。「市販の生地を使うこともありますが、色にこだわりたいときは白い生地に引き染め(刷毛や筆を使った染色)をしています。鍋に染料と生地を入れる方法だと細かいグラデーションが出にくくなるので、染めの手法はほとんど引き染めです」

だいたい布1枚を2〜3色のグラデーションになるように染めることが多いそう。「染料によって適した布や染める工程が違ったりもするので、私も勉強しつつ実際にやってみて、これは耐光性がないなとか、耐水性は大丈夫だなとか、確かめてから作品に使用しています」


▲とあるイベントの出店時、毎日のようにブースに訪れてくれた年配の女性から、直接いただいたという着物の裏地が、鳥待月さんの引き染めにより美しいグラデーションカラーに。

着物の生地は裏地に黄ばみが出てしまったりといった難点もありますが、つまみ細工に使うのは少量。「きれいなところだけをカットして使うのもいいし、洗って染め直して使うこともできるので、エコだと思う」と鳥待月さん。

少しの材料でつくる小さなつまみ細工でも、一目見ればその技術と作品への思い入れが伝わってきます。

後編では、実際に制作を行う様子や、今後の活動についてもお伝えします。

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