青木恵理子さん(後編)|針と糸さえあれば、小さなスペースでも始められる。それが編み物のいいところ。

, , , ,

青木恵理子さん(後編)|針と糸さえあれば、小さなスペースでも始められる。それが編み物のいいところ。

, , , ,

前編では、青木さんが手芸作家になった経緯や編むバッグをつくるようになったきっかけを伺いました。後編では、ワークショップの様子と編み物やソーイングに対する思いについてお伝えします。

撮影:奥 陽子  取材・文:庄司靖子  協力:ハイジ

「青木さんのワークショップをひと目見学させてください!」。そんな取材記者のリクエストに応えて、わざわざワークショップ開催日に取材を合わせてくれた青木さん。会場となったのは、前編でもご紹介したハンドメイドの雑貨と手芸材料のお店「ハイジ」さん。ワークショップでは、著者本『ズパゲッティで編むバッグと雑貨』に掲載されている「水玉模様のミニバッグ」を編みます。定員6名の席は予約開始後、すぐに満席になったそう。

 

糸選びから始まるワークショップ

窓際から光が差し込む明るいコーナーがワークショップの会場。棚に並んだ糸から参加者が好みの色を選べるというのも、ワークショップの楽しさです。

手際よく準備をスタートする青木さん。水玉模様部分の糸は白とアイボリーを用意します。作品のアクセントとなる糸は、一玉買ったら余ってしまう、悩ましい存在。ワークショップでは必要な量だけ用意してくれるので、無駄なく使えるのが嬉しい。

次々と編み図と針がセッティングされていきます。

「普段のワークショップではかぎ針を持参してもらうのですが、ズパゲッティのように太い糸を編む7mmのかぎ針は持っていない方も多いので、こちらで用意しました」。編み図もひとりひとりに用意されています。手ぶらで参加できるのも魅力。


▲編み図は青木さんの手描き。ファンにとっては嬉しい1枚。

参加する6名がそろい、色選びが始まりました。皆さん好みの色がかぶることなく、どんどん決まっていきます。

差し色は、白にするか、アイボリーにするか。色合わせにあれこれ悩むのも編み物の醍醐味です。

ワークショップが始まると、青木さんが糸の出し方やつくり目の方法などを説明していきます。豊富な経験をもとに考えられた、青木さんならではのやり方を教えてもらえる、ああ、なんて贅沢な時間なんでしょう!

 

持ち歩きに便利。青木さんの“7つ道具”

ワークショップが始まる前、普段使っている道具を見せていただきました。

こちらのかぎ針セットは何十年も使っているという愛用の道具。ワークショップのときに使うはさみや段数マーカーなどを入れているのは、プランターバッグ。「この横長な形が道具を入れるのにぴったりで、持ち歩くのに便利なんです」

普段使っているはさみや針刺し。昔からあるタイプのものが好きなのだそう。

「この針刺しは、数少ない、自分でステッチしてつくったものです。クロスステッチはこれからもやっていきたい、とても好きなジャンル」。手前の数字の入った針刺しはミシン針用。「9と11の針が間違いやすいので、数字があると便利なんですよ」

長年編み物をやっていた方から譲ってもらった棒針のセット。青木さんはずっとこの針を愛用しているそう。棒針ゲージやキャップも必需品です。

 

多岐にわたる作品はソーイングが基盤

1年を通してずっと仕事のためにものをつくっている印象の青木さん。プライベートで何かをつくる時間はあるのでしょうか。

「今は自分のものをつくる時間がなかなか取れません。でも、1年に1枚は自分のウエアを縫うようにしています。親にお金を出してもらって学んだ技術はソーイングなので、その技術だけは失いたくないと思っているんです」

青木さんは今、洋服の型紙を引いて縫う、ということからは少し離れていますが、バッグの持ち手やマチの考え方、デザインの発想などは、ソーイングが基盤となっていると言います。型紙をおこしてからバッグを編み始めることもあるそうで、デザインや縫製を学んだ青木さんならではのアプローチだと納得。

「私の場合、ひとつのジャンルを深く突き詰めているのではなくて、アウトラインがあって、そこに編み物とかソーイングの手法で形をつくっている、ということが多いです。ひとつのことに深く関わっている作家さんの本を見ると素晴らしいなと思う反面、自分はいろいろなことに手を広げて、なんて浅いんだろう、と。でもそれが私の特徴なのかもしれない、と思い直したりもしていますが」


▲ソーイングのイラストが描かれた缶にピンクッションやはさみなどを収納。「こういうかわいいものを持つとテンションがあがりますよね」

 

縁あって、編み物の世界にいるけれど

編み物では、かぎ針編みの仕事の方が圧倒的に多いという青木さん。「縁あって編み物の世界にいますが、棒針編みはまだまだ入り口にしかいないと思っています」と、意外な言葉が。

「たまに棒針編みのお仕事をいただくと、たとえばくつしたひとつからでも、学びや発見があるんです。お仕事を通して少しずつ編んでいったら、いつか技術が身について、素敵な羽織ものが編めるかも、と想像したりしています。もしかすると個人的な興味なのかもしれませんが、ぜひ身につけたい技術です」。編み物へのさらなる興味や探求心についても語ってくれました。

 

そのときにできる“新しい何か”がきっとある

青木さんは、本づくりに対しても前向きな姿勢で臨んでいます。

「自分ができる範囲で何年も続けてきてだんだんとわかってきたこと、上達したこと、謎だったことの判明、それらが積み重なって、そのときの自分にできる新しい何かを常に提案していきたいと思っています」

たとえば、持ち手のバリエーションはいつも頭の片隅にあって、実際に編んでいてこれは使える、と思ったアイディアは取り入れていくそう。そんな青木さんのチャレンジ作品、作品展の会場でも発見しました。

「作品展を開催するにあたり、何かプラスで置きたいと思い、ズパゲッティを使ってピンクッションをつくりました。糸と布のあまりでこんなものもできますよ、という提案です」

ソーイングからスタートした青木さんにとって編み物の魅力はどんなところなのでしょう。

「布と違って、無駄が出ないところでしょうか。もちろん糸のあまりは出るけれど、別の糸と合わせたりして何かには使えますよね。編み物は線から面をつくっていくから無駄が少ない気がします。それに、小さなスペースでさっと始められるのが楽しいところです」

冷静に自己分析し、静かに語りながらもものづくりに熱い思いを抱いている姿がとても印象的でした。

青木さんが編み物を始めたきっかけについては、前編でご紹介しています。

おすすめコラム