江戸時代の高級化粧品「紅猪口」の原料となったベニバナ|小満『二十四節気 暦のレシピ』

江戸時代の高級化粧品「紅猪口」の原料となったベニバナ|小満『二十四節気 暦のレシピ』

黄金色の麦の穂が実り、収穫の時季「麦秋」を迎えます。生命の強い気が天地に満ち渡ります。

文:猪飼牧子 撮影:清水美由紀 文・つくりら編集部

明日5月21日から二十四節気は小満です。

小満『二十四節気 暦のレシピ』

小満とはすべてのものが成長し、天地は生き生きとした生命で満ちあふれるという意味です。穏やかで暖かく、少し汗ばむような陽気の日も出てきます。陽射しに負けない鮮やかな色合いの草花が増え、目にも楽しい時季。青い空に映える紅色のベニバナもそのうちのひとつです。

『ベニバナ 小満『二十四節気 暦のレシピ』

ベニバナはキク科ベニバナ属、エジプト原産といわれています。紀元前2500年のミイラの衣服はすでにベニバナで染められていました。日本へは中国、朝鮮半島を経由して渡来。現在は日本全国で栽培されていますが、山形県の産地が特に有名です。

美しい紅色の花から採れるベニバナ色素は、古くから着物などの布帛(ふはく)や化粧品、食品の染料として人々の暮らしに寄り添ってきました。ベニバナの中には黄色と紅色の2色の色素が入っていますが、ほとんどが黄色で紅色はほんのわずか。紅色に染めるためにはまず黄色の色素を抜き、残った紅色の色素を採るという細かな作業をしていました。

 

鮮やかな紅色に娘たちの夢が宿る

このベニバナ色素を用いた有名なものに江戸時代の紅猪口(べにちょく)があります。これは手のひらサイズのおちょこに、ベニバナから抽出した紅を塗ったもので、紅猪口ひとつ分に約千輪ものベニバナが必要なほど、大変高価なものでした。

可愛らしい姿とは裏腹にベニバナには鋭いトゲがあるため、ベニバナ摘みは早朝、朝露でトゲが少しでも柔らかいときに行われました。それでもトゲに刺され、産地の娘たちの指は血で真っ赤に染まります。過酷な作業に、ベニバナの紅色は娘たちの血の色などといわれるほど。なんとも胸が締めつけられるお話です。

ベニバナの種子はベニバナ油 (サフラワーオイル) の原料としてよく知られます。花弁を乾燥させたものは紅花(こうか)と呼ばれ、血行促進や女性特有の不調や冷え性などに有効な生薬です。高級な黄色の染料、サフランの代用品としても使われたそう。

小満『二十四節気 暦のレシピ』

観賞用切り花としての用途もとても多いベニバナ。切り花として出まわるときは蕾のことも多く、一見、地味に感じますが、変化の過程は可愛らしく、固い蕾が一花ひと花、ほころんでいく姿はまるで花火のよう。咲きはじめはほんのりと黄色みを帯び、頬を染めるかのように少しずつ紅色になっていくのです。

禁忌 生薬の紅花には子宮収縮の作用があります。妊娠中やキク科アレルギーの方は使用を避けてください。

*一部、再編集し掲載しています。

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【書誌情報】
『二十四節気 暦のレシピ』
猪飼牧子・清水美由紀 著「二十四節気 暦のレシピ」古くから季節を表す言葉「二十四節気 七十二候」をテーマに、季節の移り変わりを花や植物で感じながら、ものづくりの楽しみを提案。
小さな変化を繰り返しながら、季節とともに四季をたどっていく植物。その時季の植物をアレンジメントや料理やおやつに生かしたり、心と体を健やかするハーブやアロマを活用したり、ちょっとしたおもてなしの小物をつくったり。二十四節気を植物とものづくりで体感できるアイデアとレシピ120を紹介します。