いからしさとみさん(後編)|裏面も美しい花ふきん。先人の技を伝えつつ、彩り豊かな色糸と自由な図案で現代へと引き継ぐ

いからしさとみさん(後編)|裏面も美しい花ふきん。先人の技を伝えつつ、彩り豊かな色糸と自由な図案で現代へと引き継ぐ

前編では、刺し子との出会いや、共著『刺し子の手しごと』の制作についてお話を伺いました。後編では、オリジナル模様をつくる面白さ、「あさぎや」の活動やワークショップなど、刺し子を通じて広がる世界についてお話します。

撮影:奥 陽子 取材・文:太田明子

裏面も美しく仕上げる技

 

つくりかけの花ふきんで、実際に縫う工程を見せていただきました。

まず束状の糸を解いて、長い1本を取り出します。1本は細い糸12本の集まりなのでそこから3本取ります。まとめて取ろうとすると絡まりやすいので、必ず1本ずつ。3本を重ね合わせて針に通して輪にし、二重にすると6本になります。

刺し始めは、2重になっている布の1枚だけすくい、布の間に針を通します。刺し始めの位置から4~5針先に針を入れ、進行方向の逆側から、刺し始めの位置に戻るような感じで針を出します。糸を布の間に縫い込んで重ね縫いにするため、糸玉をつくらなくても、ほどけません。

「ふきんのように裏面も見える作品は、玉止め・結び玉という手法を使いません。表から糸を入れて渡し、わからないように止めています。布と布の間を通すことによって表面に出ないし、裏側もごろつかないので、すっきりと仕上がります」

下の作品は、青海波の模様をアレンジした花ふきん。円弧で波を描き、大、中、小の波ごとに続けて刺すのですが、裏面も糸玉がなく、美しい。びっくりです。

刺している間は一部の縫い目だけに捉われず、全体を考えながら刺すのがポイントなのだそう。

「途中で眺めたとき、針目の向きが微妙に散らばる感じが気になるので、一目ごとにすくいながら刺すより、並縫いでザクザク進んだ方が目が揃います」。さすが熟練者の弁。

基本は小学校で習った並縫いなのですが、柄によっては、刺す順番に注意を要するものもあるそう。

「刺し子模様を刺すときは、なるべく糸つぎを少なくして刺すのがよいです。一筆書きで長く続けていけるところから刺し始めます。糸を重ねた状態で縫うので、けばだったり、もつれたり、刺しているうちに糸が細くなってきたりします。そんなときは惜しまず糸を切って取り替えたほうがきれいに仕上がります」

実演していただいた花ふきんは「二重七宝つなぎ」。日本に古くから伝わる吉兆模様のひとつです。中央におめでたい松竹梅を加えてお正月向けの縁起物に。

 

ワークショップでは明るい配色を

6年ほど前に東京で手づくり市が開催されたとき、お店のスタイルをとりたくて、好きな浅葱色(薄い藍色)から屋号を「あさぎや」と決め、本格的に活動を開始しました。

今、いからしさんが力を注いでいるがワークショップ。なかでも現代的で自由な模様は、若い人を対象に考案し、明るい配色を取り入れています。一番人気はやっぱり花ふきん。夏野菜の図案も好評だったそう。

「夏野菜のカラフルさや野菜のパワーを表現したかったので、野菜の色、配置を何回も試してみました。ワークショップでは、野菜のパーツを受講者の方に渡して、配置していただきました」

花ふきんのワークショップでは、季節を意識して模様を考えているそう。一番上にあるのは、柳にツバメをあしらった初夏の花ふきん。

四隅に菊刺し、中央に松竹梅を入れた花ふきん。紅白の配色がお正月の凛とした風情をかもし、あらたまった気分になります。

ワークショップでは、楽しく仕上げてもらえるよう、色糸も揃えています。色を指定する場合もあれば、作品によっては数色用意して、生徒さんに自由に選んでもらうこともあるそう。


▲手芸店ホビーラ・ホビーレの刺し子用の糸。「色がきれいなので、模様によって使っています」

幾何学的な連続模様が面白いコースターは、一目刺しの練習課題として作った見本作品。右の上下2点は一目刺しをアレンジしたもの。中央上は段つなぎ、下は銭刺し、左は十字花刺し。鎌倉のワークショップでは、希望に合わせてつくれるそう。

こちらはエッセンシャルオイルを紙玉に浸み込ませて使う香り袋。左から二重柿の花、米刺し、通し刺し。

 

先人の知恵を“纏う”

日常の道具として、日々の暮らしに寄り添う刺し子ですが、袢纏(はんてん)やエプロンなど、身に着けるアイテムに仕立てると、その本領を発揮します。

こちらは、紺と浅葱色の布の合わせ縫いに苦心した袢纏。「『比翼井桁(ひよくいげた)』の模様は吉田英子先生のアドバイスです」。故永六輔さんも、吉田英子先生が刺し子を施した作務衣を愛用していたそう。

袢纏を包んでいる風呂敷も刺し子。「藍木綿は、洗うたびに藍の色が冴えて布地がしなやかになり、味わい深くなります。木綿は刺しやすくて丈夫なんです」


▲唐草模様は好きな柄のひとつ。洗濯は手洗いで、アイロンがけもOK。

 

まだまだ学びたいこと、伝えたいことがある

「つくる楽しみと、それを使う歓びの両方が刺し子の醍醐味です。多くの人に伝えることで、堪能していただきたいですね」

ワークショップやオーダー制作のかたわら、美術展に出品したり、入選作をチェックしたり、日々、研鑽を積んでいます。「まだまだ学ぶことがあるなと刺激されます。他の作品を見ることは大事ですね」

ゆくゆくは藍染と組み合わせた大作のタペストリーを手がけたい、と夢を語ってくださいました。


▲いからしさんの手から生み出された数々の刺し子。ワークショップのサンプル見本、試作・・・。1つ仕上げるごとに発見があるという。

最近では、焼き菓子を研究中の娘さんとの素敵な取り組みも始まっています。

「ワークショップでは、娘の焼いてくれた焼き菓子をお出ししています。これがまた結構、好評で(笑)。「お菓子屋まるの」という屋号で頑張っている娘の販売応援として、お手伝いすることもあります。娘のお菓子販売では、私の作品は置いていないのですが、いつかいっしょにコラボレーションできたらいいですね」

 

 

 

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