パリ取材・第3話|豊かな色彩に心ときめく手芸空間。店主のこだわりが貫かれたパリのメルスリーで、センスと美意識を磨く。

パリ取材・第3話|豊かな色彩に心ときめく手芸空間。店主のこだわりが貫かれたパリのメルスリーで、センスと美意識を磨く。

つくりら海外取材スペシャル第3話です。第1話2話では、パリの手芸見本市「Aiguille en Fete(レギュイユ・オン・フェット、針の祭典)」についてレポートしました。第3話は、パリでめぐった素敵なメルスリー、手芸屋さんのお話です。

撮影:清水美由紀 取材・文:平岡京子 現地コーディネート:窪田セリック由佳 取材協力:糸六株式会社

パリのメルスリーが魅力的な理由は「店主の哲学がその店舗に反映されているから」。数年前にパリを訪れたとき、あるメルスリーのオーナーに聞いたことがあります。


▲メルスリー(mercerie)とは、フランス語で手芸屋さんのこと。糸やボタン、リボンなどの副資材や生地、毛糸などを扱っているお店。こちらは、マレ地区の「Entrée des Fournisseurs(アントレ・デ・フォルニスー)」の店内。

美しい空間を演出してお客様を迎えてくれる、パリのメルスリー。ディスプレイやオリジナル商品の品揃え、色彩、何を並べて、何を引き出しの中にしまうのか、そんなところにまでその店なりのこだわりが感じられます。

 

愛され続ける「店」へのヒントを探しに

今回の取材は、京都の老舗糸屋「糸六」の今井登美子さん、春樹さん親子のメルスリーめぐりに同行させてもらう旅。

絹糸を扱い、京都で150年。伝統的な商家造りの店舗で、今も昔も変わらぬものづくりと糸の販売を行う糸六さん。五代目当主の登美子さんと次期当主となる息子の春樹さんは、これからのお店や絹糸のあり方を日々、模索しています。


▲「Entrée des Fournisseurs」で、1つひとつのディスプレイを丁寧に見てまわる登美子さんと春樹さん。

「歴史があるというだけではなく、上質な絹糸がお客様により喜ばれ、より愛されるようになるにはどう歩んでいくべきなのか」。その答えのヒントを求めて、京都からパリへ。世界が注目する手芸見本市やメルスリーを自らの目で確かめ、体感するためにここまでやってきたのでした。

糸六さんがパリでどんなものに心ときめかせるのか、取材陣も興味津々。パリのメルスリーめぐり、メトロに乗ってスタートです。

 

おしゃれなエリア、マレ地区の超人気店

はじめに立ち寄ったのは、おしゃれなエリアとして人気のマレ地区にある「Entrée des Fournisseurs(アントレ・デ・フォルニスー)」。美しい佇まいと品揃えに惹かれ、世界中からお客様が訪れる素敵なメルスリーです。取材時はまだ寒い季節だったので、建物の壁面を彩る蔦の葉は枯れていた。残念!


▲中庭に面した「Entrée des Fournisseurs」のエントランス。夏には蔦の葉が青々と茂り、いっそう美しい外観に。


▲外から窓を覗くと、何に使うのか予定がなくてもついつい入ってしまいたくなる景色が広がっている。

 

がっかりさせるものが何もない、美しい手芸空間

店内に入って、思わず息を呑みます。がっかりさせるものが何1つなく、空間そのものがとても気持ちがいいのです。お店を訪れるお客様が何を求めているのか、店側がよく理解していることがひしひしと伝わってきました。


▲リボンや糸は、たくさんの種類を一度に見られるよう立体的に展示されている。


▲糸もご覧のとおり一目瞭然。豊富な素材と色彩が、手づくりへの気持ちを高めてくれる。

今井さん親子も、リボン、糸、ボタン、毛糸などのディスプレイの工夫や、色彩の豊かさ、個性的なオリジナル商品の豊富さに目を輝かせます。「糸やリボンのディスプレイがとても自由で美しくて、興味深いものがありました」と春樹さん。


▲毛糸、ボタン、リボン。色合いや展示方法が工夫されているので、雑然とした印象が全くなく、宝探しするようなワクワク気分に。

「フランスでも絹糸は大切な産業なんですよ。同じように貴重な絹糸を扱う日本の糸屋さんに出会えて、とっても嬉しいです。これからも交流していきましょう」。これは、取材前日、挨拶におじゃましたときにオーナーが語ってくれた言葉です。


▲「Entrée des Fournisseurs」のスタッフと記念撮影する今井登美子さんと春樹さん。

 

洋裁マニアにはたまらない! 個性豊かな糸や布

次に向かったのは、リヨン駅の近く。赤レンガが美しい元国鉄の高架橋があるエリアです。今は使われなくなったアーチ型の高架橋は、その上部が緑化されて遊歩道に。橋のアーチを生かしてつくられた地上のスペースには、アートやクラフト、家具などの工房やショップが50店ほど軒を連ねて「芸術の高架橋」とも呼ばれる場所になっています。


▲リヨン駅近くの美しい高架橋。

それぞれの店はとても個性的で、高架橋に合わせて高く広くつくられたショーウインドーの列が美しく、ただ眺めているだけでもパリの良さが味わえる街並みです。

ここに店舗を構えるのが、シャネルなどの有名ブランドにツイードを供給していることでも知られるファブリックブランド、「Malhia Kent(マリア・ケント)」。


▲ちょっと尖った雰囲気の外観の「Malhia Kent」。外から見えているファブリックもなかなか個性的。

と言っても、ここは「Malhia Kent」の商品の販売店でも、手芸店でもないのです。店内は天井が高く重厚な雰囲気もありますが、床にはちぎれた糸があちこちに散らばって、端切れのようなものもたくさん・・・。


▲面白い色柄の端切れも多く、探し出したらあっという間に時間が過ぎそう。

実はここ、「Malhia Kent」のファブリックの製造過程で残った個性いっぱいの糸や布が購入できる、手芸好きにも、洋裁好きにも嬉しい場所なんです。運が良ければ、本当に希少なツイードの残布にも出会えるかもしれませんね。


▲ズラリと並んだ糸のコーナーも。

 

クロスステッチ刺繍で有名なメルスリー

再びメトロに乗って、グラン・ブルヴァール駅の近くにあるフランス伝統の美しいアーケード街、パッサージュ ヴェルドーへ向かいます。

パリには大小いくつかのパッサージュがありますが、どこも歴史を感じさせる佇まいを大切に残しつつ、味わいのある商店街として活用されています。歩いているだけで少しタイムスリップしたような気分が味わえるのも、パッサージュの楽しみです。


▲グラン・ブルヴァール駅近くのパッサージュ ヴェルドー。

細い路地のような通路を挟んで、両側に雰囲気のある素敵な店が並んでいるパッサージュ ヴェルドー。天窓のようなアーケードから柔らかな陽射しが射し込みます。


▲パッサージュ ヴェルドーの通り。

このパッサージュの中にある小さな間口の可愛い店が、「Le Bonheur des Dames (ル・ボヌール・デ・ダム)」です。クロスステッチ刺繍で有名なメルスリーで、手芸愛好家や海外からの観光客にもよく知られていて、平日にも関わらずとても賑わっていました。


▲「Le Bonheur des Dames」の店内。店内の壁いっぱいにディスプレイされている刺繍額は、クロスステッチだけではなく、簡単なデザインから複雑なものまで目が回るほどの数。

そのほかにも、図案をモチーフにしたカード、ピンクション、タッセルなど、お土産にぴったりの愛らしい小物がいっぱいです。


▲ノートやしおりなどの大小のオリジナル文具も揃う。


▲針や色糸、刺繍糸や道具がたっぷり入っている裁縫箱。小ぶりのボストンバッグに収まっている姿がなんとも可愛い。

メルスリーめぐりはまだまだ続きます。続きは第4話へ。

 

おすすめコラム