BOOKS
暮らしの本
著者:中川たま
読んだ人:太田明子(ライター)
心地好い暮らしを提案する雑誌や書籍が近頃めっきり増えた。でも、その内容は私たち読者の日常とかけ離れた、いろんな意味で余裕を必要とする、ハードルの高いものが多い。
だが、うれしいことにこの本の筆者は身の丈に合った、つつましい日常の中の台所仕事を慈しんでいる。無理して立派に見せようとせず、肩の力の抜け感がいい。
郊外の借家に娘と夫の3人暮らし。自ら寒さが苦手で花粉症の持病があり、娘は野菜嫌い・・・。ごく普通の生活の営みと、誰にもありそうな苦手意識、マイナス思考などが次々と告白されていて親近感が沸く。それらをイヤはイヤ、できないことはできないままで、料理家らしい知恵にあふれた保存食のアイデアをたっぷりと紹介している。食材や調味料が身近なものだけに、キッチンに置いて日頃から参考にしたくなるレシピ集だ。
季節を追って取材したため、制作に1年以上を要した。
文章も然り、時間をかけて練られたものだ。1年を約15日おきに刻んだ二十四節気で感じとり、折々の想いが情緒ある言葉で紡がれる。かつて時計のない時代に、人々が花鳥風月や食べ物で季節のめぐりを感じたように、現代に生きる彼女もまた、心豊かな生活ぶりを見事に描いている。筆力もさることながら、読みやすい工夫がなされているので、献立の参考にするだけでなく、読み物としてもオススメできる。
神奈川県・逗子在住の人気料理家のライフスタイルエッセイ。季節を慈しむ「食」と「暮らし」の手仕事をまとめた1冊。充実の81レシピ付き。
書籍名:暦の手仕事 季節を慈しむ保存食と暮らし方
著者:中川たま
ページ数:176ページ
判型:四六判
発売日:2016年2月
定価:1,404円(税込)