なかたに もとこさん(後編)|グラデーションやメタリックも!クイリングペーパーで広がるアーティスティックな可能性。

なかたに もとこさん(後編)|グラデーションやメタリックも!クイリングペーパーで広がるアーティスティックな可能性。

クイリング作家兼講師として活躍中のなかたにもとこさん。前編では運命的なクイリングとの出会いについてお聞きしました。後編では、著書『空間を生かした新しいペーパークイリング クイリングアートブック』(日本文芸社)のお話や、実店舗を構えるクイリング専門店「STRIPE」についてお届けします。

撮影:清水美由紀 取材・文:酒井絢子

『空間を生かした新しいペーパークイリング クイリングアートブック』を含め、これまで4冊の本を上梓しているなかたにさんですが、実は最初の本を出すまでに出版社からのオファーを引き延ばし続けていたんだとか。お店や教室、子育てで多忙を極めていて、「そのうちにね〜」なんてはぐらかしながら何年か経ってしまったそう。

 

斬新なクイリングアートをコンパクトな一冊に

2017年、なんとか時間を工面して完成させたのが最初の本、『花と色を楽しむペーパークイリング』(ブティック社)。当時の受講生さんもとても喜んでくれて、この本をきっかけでクイリングをやる人も増えたと言います。

その後2冊の本の制作を経て、2019年に「お花やスイーツのクイリング本ではない、アートを感じるものを」というオファーが舞い込み、完成させたのが今回の『空間を生かした新しいペーパークイリング クイリングアートブック』(日本文芸社)。


▲『空間を生かした新しいペーパークイリング クイリングアートブック』(日本文芸社)の表紙も飾っている「G clef ト音記号」は「こういうのがつくりたかった!」という喜びの声が多数だそう。


▲ラフ画は実物大で大胆に描く。ペンは三菱鉛筆のジェットストリーム一筋。筆圧をかけずにサラサラ描けるのがお好みだそう。


▲著書掲載作品。技法がなるべく違うものになるように、なおかつペーパーや色にも幅が出るように、デザインを選出。

「トラディショナルなクイリングの技に、紙を巻かずに立てるようにして形づくる手法を取り入れているから、“新しいペーパークイリング クイリングアートブック”なんです。新しい試みにも挑戦し、提案しています。くるくると紙を巻く“サークル”はもちろん基本となっていますが、中にはまったく巻いていないものも」


▲実物はほぼ100パーセントの大きさ(15㎝×15㎝)で制作。こちらの「Cat 猫」は裏表紙にも登場。


▲なかたにさんが表紙にどうかと推していたという「白い羽根」。最終的には、赤い画用紙にレイアウトされて扉ページを飾っている。


▲グラデーションペーパーの繊細な色使いを生かしたさわやかな作品「HOME レタリング」。

 

シンプルだけれど、カラフルな作品集に

ボタニカルクイリング・ジャパンのチーフ・インストラクターも務めるなかたにさんは、「ボタニカル」の名の通り、お花や植物をモチーフにした作品やキットをたくさん制作してきました。今回の編集者が提示した「無機質、シンプル、カラフル」というコンセプトは新しい試みだったのです。

「教室の受講者さんや私のこれまでの作品を知っている人は、でき上がった本を見て、今までのイメージと違うことにびっくりしたんじゃないかと思います。でも新鮮さも感じてもらえているみたい」


▲「ART」の文字が強調された最初の表紙案たち。印刷で本のタイトルが入ると文字数が多くなってしまうため、別案に差し替えに。


▲本の中でもとりわけ斬新な、巻いている部分が一切ない作品「Stained glass ステンドグラス」。カラフルなガラスを表現しているのはマーメイド紙。

さっそく読者から「全ての作品がとても斬新」「まるで絵本のようで、想像力をかき立てられる」「新しいクイリングの魅力を発信していると思う」「こういう作品をつくりたかった!」と嬉しい声が届いているようです。

 

世界でも珍しいクイリングのセレクトショップ


▲ト音記号の作品は特に人気で、熱い要望に応えるような形でキットとして販売している。発売されてすぐに4つもつくり上げた受講者さんもいたんだとか。

エッジにメタリックの加工がついたペーパーや、洗練されたグラデーションペーパーなど、特殊な紙を選ぶのも面白いということも伝えたくて、ペーパー選びも熟考した『空間を生かした新しいペーパークイリング クイリングアートブック』(日本文芸社)。使われているクイリングペーパーは、もちろん、なかたにさんが手がけるクイリング専門店「STRIPE」でも取り扱います。


▲色ごとに並ぶクイリングペーパー。色だけでなく、紙幅や紙質、そして長さも多種多様。


▲韓国製ミックスペーパー。カラフルな作品もすぐにつくり始められる70色700枚入り。

世界を飛び回るなかたにさんが、「クイリング用品だけをこんなにたくさん取り扱っている実店舗は世界中でもここだけなんじゃないか」と自負する豊富な品揃え。ドバイやインドネシアなどからの来客もあるんだとか。

「日本だと、手芸店に行ってもクイリング用品が置いてあるということはほとんどなくて、多くの人がネット通販で購入していると思います。クイリングは少しずつ人気が高まっているようで、最近は大手ECサイトなどでも専用ペーパーが買えるようになってはいるんですけれど、中にはクオリティがいまいちなものもあるのが実情です」


▲濃淡のコントラストが美しい、同系色ごとにまとめられたミックスパック。イギリス製。


▲色の変化が個性的で面白いグラデーションペーパーも。つくる形によって、色の出方を楽しむことができる。


▲クイリングの必需品とも言えるスロットと、ニードルのセット。スロットは初めての方やローズなどのモチーフをつくるとき用。ニードルは中級者におすすめ。

現在STRIPEでは5社くらいの紙とツールを取り扱っています。「紙は色みや質にこだわったオリジナルのものも開発・販売しています。ニッチな業界なのでなかなか難しいとは思いますが、国内で道具の開発にも取り組んでみたいですね」

 

多数の資格者を輩出するクイリング教室

店舗内に併設されたアトリエでは、週4〜5日でクイリング教室を開催。品揃えだけでなく、人の出入りも多くにぎやかです。


▲ボタニカルクイリング・ジャパンのクリエイティブアドバイザーも務めるペーパーアーティスト・小紙陽子さんの作品。クイリングペーパーにコピックマーカーを使用し、柔らかな植物の表情を表現。

「自宅で教えていたときはかなり時間が限られていたんですが、アトリエに移ってからは午後にも開講できるようになって、受講者さんも増え、講座のコマ数も増えました。以前に塾講師の仕事をしていたこともあったので、人に教えるのは好き。それに何よりも皆さんと時間を共にするのが楽しいですね」

教室に通うと、2年くらいで講師になるほどの技術が身につく人が多いそう。ただ、「講師の資格を取るために無理をしてしまってクイリングが嫌いになって欲しくないから、それぞれに合ったペースで進めていってもらっている」というなかたにさん。受講を終えて、講師になったとしても、その後の支援も自分の仕事だと考えていると語ります。


▲なかたにさんの教室で学んだ受講者さんが制作したクイリングキットが並ぶ店内のコーナー。童話をイメージしていたり、動物をモチーフにしていたり、それぞれ個性豊か。

「講師になったらライバル視して離れてしまうのではなくて、共に頑張ろう!って。クイリングの楽しさをみんなで広めていけたらいいなと思っているんです。STRIPEでは、彼女たちの制作したキットを店頭に取り揃え、全国に販売しています。習得したクイリングの技術が、小遣い稼ぎに留まらず、専業で講師になれるところまでいってくれたら嬉しいですね」


▲ボタニカルクイリングジャパン認定インストラクター・ミヤザキリカさんの愛くるしいミニチュアキット作品。


▲豆色紙に12か月の季節感あふれるモチーフを飾ったミニキットの作例。なかたにもとこ教室公認インストラクター・もりーぬさんの作品。

 

クイリングの楽しさをより多くの人に知ってもらいたい

クイリングの魅力は、紙をくるくると丸めたりモチーフを組み上げたりという作業そのものの面白さもさることながら、いろいろな場面でデコレーションとして取り入れられることも大きいようです。ウェディングボードや、お世話になった方へのメッセージブックの表紙を飾ったり、お子さんの名前を入れたプレートをつくったり。ご祝儀袋を手づくりするのにもぴったりだそう。

「日本の文化や、几帳面な日本人の特性にも合っているんだと思います。クイリングの本場はイギリスやアメリカですが、ここ最近は国内でもクイリングの本が続々と出版されているのもあって、日本の技術は世界でも注目されていますよ」


▲2019年11月に開催した「ボタニカルクイリング・ジャパン・インストラクター展覧会2019」に出展した作品「REIWA 〜言祝ぎの花〜」(写真中央)。なかたにさんのクリエーションとしては珍しい和風の作品。


▲深い赤のダリアはクイリングペーパーをコピックで着色。グリーンネックレスや千両の実の部分は、クイリングペーパーをグレープロールという技法で巻いたもの。

なかたにさんはすでに5冊目の本の出版が決まっているそう。今後の展望を伺うと、「もっともっとクイリングを世に広めていきたい」と力強く答えてくれました。

「週4で働くのが理想だったけれど、気がつけば週6で働いている」と笑いながら話してくれたなかたにさん。多忙を極める毎日ですが、「今がいちばん楽しいし、これが天職!」とキッパリ言い切ります。その熱量と技術、そしてたくさんの人望と世界中に飛び出す行動力を大いに活かし、クイリングの魅力を広げていってくれることでしょう。

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