なかたに もとこさん(前編)|くるくる巻いて紙が華やぐペーパークイリング。古くて新しい手工芸の世界に魅せられて。

なかたに もとこさん(前編)|くるくる巻いて紙が華やぐペーパークイリング。古くて新しい手工芸の世界に魅せられて。

17年前にペーパークイリングに出会ってからさまざまな縁を繋いでいる、なかたに もとこさん。11月に新刊の『空間を生かした新しいペーパークイリング クイリングアートブック』を上梓したなかたにさんにクイリングとの出会いや魅力についてお話を伺いました。前編・後編にわたってお届けします。

撮影:清水美由紀 取材・文:酒井絢子

クイリングは、細長い紙をくるくると巻き、植物などのモチーフを表現する手工芸。その歴史は奥深く、ルネサンス時代にまで遡ります。

 

世界に広まる、歴史ある技法「Quilling」

フランスやイタリアの修道女たちが聖書の製本で余った紙を鳥の羽軸(quill)に巻きつけ、宗教用具などを飾ったことが起源といわれており、18世紀にはヨーロッパの貴族の間で大流行。その後世界中に広まり、イギリスやアメリカでも愛好家が増えていったそう。


▲なかたにさん所蔵の16世紀くらいの作品集。当時の作品には金や宝石も使われていたんだとか。現存する当時の作品は教会や欧米の美術館に保存されているそう。

 

運命的ともいえるクイリングとの出会い

なかたにさんがクイリングに出会ったのは2003年のこと。あるお客様がきっかけでした。

「大学卒業後は外食産業のマネージャーとしてバリバリ働いていたんですが、体調を崩しかけて辞め、家具職人の知人を手伝っていた時期があったんです。木のおもちゃの販売やデザインの補佐をしていたのですが、そこのお客様がクイリングにはまっている、とお話ししてくれて……」

そのお客様というのが、後に非営利団体日本クイリングギルドを共に設立することになる岸本愛子さん。アメリカに住んでいた頃に出会ったというクイリングをなかたにさんに紹介したことがきっかけで、なかたにさんのクイリングの道がどんどん開けていきます。


▲初めてクイリングを手がけた作品、「ベリーサンプラー」のキット。アンティークな味わいを醸し出す。

「初めて目にしたのは、いろいろなベリーをモチーフにした「ベリーサンプラー」。それがとっても可愛い!と惹きつけられてしまったんですよね。軽い気持ちで自分でもやってみよう、と試してみたら楽しくて、楽しくて。おもちゃ屋やってる場合じゃない!ってくらい(笑)」

「ベリーサンプラー」のキットは、30年ほど前にアメリカで発売されたもの。「私の作品はベリーの配置を間違えているんですよね(笑)。当時はそんなことにも気づかないくらい、とにかく楽しくて夢中でした」。残念ながらこのキットを販売していたアメリカの会社は2018年11月に廃業してしまったそう。


▲作品は紙が褪色しないよう、シャドーボックス用のフレームにおさめて。右側のものが販売されていたキット。


▲なかたにさんはアメリカのノースアメリカンクイリングギルドという愛好家団体の日本代表も務めている。写真は、そのカンファレンスの際にくじ引きで当たった、現代クイリングのパイオニア的存在である故マリンダ・ジョンストンさんの作品。

 

自宅近くにショップ兼アトリエをオープン

木のおもちゃを売る傍らでクイリングのキットの輸入販売も始めたなかたにさんは、岸本さんを講師としてクイリング教室も開催するようになりました。その後、結婚をきっかけに埼玉に移住すると、クイリング用品の販売に営業内容を絞り込み、ネット通販に力を注ぎます。


▲2011年7月に開催した作品展に出展した帽子。「大ぶりで華やかな花よりカモミールやハーブなどの野花が好き」というなかたにさんらしい可憐な作品。


▲淡い色合いながら華やかな花時計。実用性のあるクイリング作品としても、花時計は人気なんだそう。

「当初は材料を輸入してネットで販売していたのですが、つくり方を教えて欲しいという声が増えてきたので2006年から自宅で教えるようになり、2015年には実店舗兼アトリエをオープンしました」

オープンしたのは自宅からほど近い場所。生活と創作を切り替えて動くことができるようになったそう。現在では制作のみならず、講師育成も含むクラス運営も担い、多忙な日々を送っています。


▲小指の先ほどの大きさのミニケーキキット作品。2018年の一番人気作で、手前の作品はpart2バージョン。ゴールドのトレーは韓国で買い付けてきたもの。


▲同じ「白」でもいろいろな色味があることを表現したい、とつくった作品。6種ほどの白を使用。有機的なモチーフたちがにぎやかにハートを飾り、白い色でもあたたかな雰囲気。

 

自分自身が楽しく続けるために工夫を重ねる

クイリングをやっていて一番楽しいのは、巻いたものが形になっていく瞬間だそう。

「ペーパークラフトの部類でもちぎり絵や切り絵とかとは違うものですし、立体的ではあるけれど折り紙とも違う。例えば折り紙だと角をピシッっと揃えなくてはいけないけれど、植物をモチーフにしたクイリングの場合は多少ズレたりしても味がある、そこがいいところなんですよね」


『空間を生かした新しいペーパークイリング クイリングアートブック』に掲載されている「Playing card トランプ」。サイズは実際のトランプと同じ。クイリングパーツでつくる小さなパーツがアクセント。


▲トランプの中でも最もやりやすいというハートのカードに記者が挑戦。要所要所でつまづいても、明るくテキパキと教えてくれるなかたにさん。

実は細かい手作業がすごく好きだったというわけではない、というなかたにさん。

「根がズボラなので逆にもうちょっと工程を減らそう、なんて考えたりするんです。丁寧な人は横着しようとも思わないんでしょうけど、私の場合は、横着したままきれいにするにはどうしたらいいかな?って。たとえば、ハサミを持つ手を動かして切るのではなくて、ミシンのように紙を送って切ったり」


▲クイリングペーパーはデザインに合わせて紙の厚さを使い分け。ハートのアウトラインは、ハードペーパーで。


▲のりを広げているのは、ビニール付せん。パレットのように使えて、使い捨てもできるので便利。ペーパーの断面にちょんちょんと付けていく。

「まさにズボラが発想の種よ」と明るく笑うなかたにさんですが、その手さばきはやはりプロ。実はインタビュー時、クイリング教室の受講者さんもアトリエで制作中だったのですが、時折なかたにさんが手を動かして指導をするとその度に「おお〜!!」と感嘆の声が上がっていたのです。


▲中心も丸くなったゆるめのスクロールをつくるには細いアクリル棒を使用。


▲敷いているのはタミヤ製のカッティングマット。目盛り入りのもので、A4サイズが便利だそう。


▲ピンセットはまつげエクステ用のもの。先端は細く、内側に滑り止めの溝がないものがクイリングには適している。

 

幼少時から紙や文房具を集めるのが大好き

手を動かすのが好きなのは、編み物やパッチワークの手芸を嗜むお母様の影響が大きいそう。そう聞いて、さぞかし針と糸のハンドメイドに馴染んできたのかと思いきや……。

「小さな頃から布や糸がたくさんある環境で育ったから、その反動なのか、紙でできたものの方に興味が湧いて。レターセットや文房具が大好きで、たくさん集めていましたね。透ける紙を使ったレターセットなんて、ときめきすぎて使えませんでした」


▲愛用品はコクヨのツールペンスタンド〈Haco・biz〉に。「お道具が縦方向に入るのがすごくいいんですよ。出張教室の際もひとまとめにして持ち運べるので便利です」


▲クイリングに使いやすい真っ直ぐな筒状の棒が欲しいと思っていた際に、フロリダの友人の曼荼羅作家が持っているのを見て、これは使える!とピンと来たという曼荼羅作画用のアクリル棒。直径は3mmのものから15mmのものまで8種ほどある。


▲極細スロットツールに使っているキャップは、なんとネイルブラシ用のもの。韓国旅行でたまたま見つけ、帰国後にはめてみたらちょうどピッタリ。「手に馴染んだサイズだったから、ジャストフィットしたんでしょう」

幼少時から紙という素材に魅せられていたなかたにさん。「クイリングが天職」と断言するのにも納得です。

後編では、著書『空間を生かした新しいペーパークイリング クイリングアートブック』制作時のエピソードや、クイリング専門店「STRIPE」について伺ったお話をお届けします。

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