国境を越えたトランスカルチャーな料理が、今の気分!

撮影:長嶺輝明 文:田村 亮(日用品&ワイン喫茶 Kirin Store店主、エアポケットマガジン「キリンダイアリー」編集長)

いつの日からか、そう滅多なことではイタリアンなる店に行かなくなりました。

20歳の頃にフィレンツェへ短期語学留学したことがきっかけでイタリアに目覚め、かの国の食文化と生活様式に憧れて、イタリア在住ジャーナリストになることを本気でめざしていた20代。

その後、旅や料理の出版物を編集する仕事に就き、取材で何度もイタリアへ足を運ぶ機会にも恵まれて、プライベートを含めれば(こちらのほうが明らかに多かったけれど)、渡伊歴はかれこれ30回以上にもなるでしょうか。日本のイタリアンでも、イタリアの風を空気をそこに感じ取っては、旅の余韻に浸っていたものでした。

ピエモンテで長年修業したシェフが帰国して開いたリストランテ、エミリア=ロマーニャの手打ち郷土パスタが味わえるトラットリア、イケメン男子がボナセーラ!の本場ナポリスタイルのピッツェリア……。イタリアの”本物“が、いやイタリア以上のイタリアが、都会でも地方でも、ずいぶんと味わえるようになりました。

でも、今の自分にはよほどのことがない限り響かない。それはなぜ?

現地の料理や雰囲気の忠実な再現をめざすより、その人の旅先での豊富な体験や人生の経験値が編み出した、国境を越えたトランスカルチャーな料理を、他でもないその場所、その空間で味わいたい。今の自分の志向は、あきらかにそちら方向に向いています。

5人の料理家のレシピが紡ぐアンソロジー『今日を特別な日にするレシピ』に登場する小堀紀代美さんのテーブルは、まるで卓上旅行。栃木県発、ギリシャ、トルコ、イスラエル、東欧から南米まで。「ローストビーツのマリネとオレンジのサラダ」の主材料は、ビーツとオレンジの二つだけ。そこに粗く刻んだパステルグリーンのピスタチオは、まるで翡翠の原石を割ったように散りばめられて。深いパープルの植物柄のレリーフで縁取られたアンティーク調のお皿は、小堀さんが中欧か東欧の旅先で買い求められたものなのかしら。オレンジ果汁と赤ワインビネガーの重層的な酸味、メープルシロップが持つ樹木由来の穏やかな甘味、そして瑞々しく火の入ったビーツのほっこりとした滋味が三位一体になって、口の中でじゅんわりと広がっていくんだろうなあ・・・。

次に作る料理は、これに決めた。

写真は『今日を特別な日にするレシピ』より。

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