ブルックリンは、たくさんの手仕事が宿る場所。|ブルックリン紀行・第2話

ブルックリンは、たくさんの手仕事が宿る場所。|ブルックリン紀行・第2話

フォトグラファー、清水美由紀さんのブルックリン紀行。第1話では、清水さんが街で出会った「美味しいもの」や「可愛いもの」を紹介してくれました。第2話のテーマは手仕事。クリエイティブな雰囲気にあふれるブルックリンが登場します。

撮影・文:清水美由紀

ブルックリンでは手仕事にもたくさん出会うことができました。手づくり感のあるモノに触れると、小さな街ならではの温かみを感じて、懐かしいような幸せな気持ちをもらえます。どうして手でつくられたものには、心を震わせる力があるんだろう。今回はブルックリンで出会った手仕事についてお話ししたいと思います。

 

壁面いっぱいの手描き広告にびっくり

ブルックリンで最初に目に飛び込んできて驚いたものがあります。それは手描きの広告です。レンガの大きな壁面の前に小さな作業車が停まっていて、その上にはペンキと絵筆を持った男性の姿がありました。どうやら手描きで広告を書いている様子。手描きの温もりもありますが、なんて美しいんだろう!日本では見ることのないこの光景に心底驚き、感嘆してしまいました。


▲数日後に通りかかったときには、全部の壁面がすっかり完成。

また、よく見かけたのがハンドメイドの商品です。レストランのお料理も、よく練られて一期一会を感じる、手仕事の感覚が伝わるものに多く出会いました。


▲手作業でつくられたMARKHAM & FIZのチョコレート。ブルックリンのカフェ&ショップ「Regular Vistors」にて。

 

フリーマーケットのBrooklyn Flea  

第1話でもほんの少しご紹介したフリーマーケット、Brooklyn Flea。ここにはヴィンテージショップだけでなく、革小物やアクセサリー、靴屋さんなどのハンドメイド作家も参加していました。


▲11月から室内で開催されるBrooklyn Flea。


▲植物由来のナチュラルな商品を手づくりして販売している「Savannah hope studio」は、サステナブル&マインドフルがテーマ。


▲ブルックリンに店を構える「Dough」のドーナツ。一気につくらず、こまめに手づくりするため、1日を通してつくりたてのドーナツが味わえる。

 

昔のレースやファブリックにうっとり

ヴィンテージショップ、STELLA DALLAS LIVINGには、昔のハンドメイドがたくさん。美しいアンティークレースや刺繍のハンカチ、ベッドリネンにお洋服もありました。広い店内に所狭しと並べられた布ものはどれも美しく、うっとりとしてしまう時間になりました。


▲このお店の名前も手描きなのでしょうか。


▲繊細なアンティークレースのワンピース。


▲カジュアルなパターンもののベッドカバーがずらり。

 

思いかげず日本の手仕事に出会う

NALATA NALATAは、ブルックリンではなくマンハッタンですが、なんとニューヨーク(以下、NY)で日本の手仕事がずらりと並ぶお店です。カナダ出身の方が経営するショップで、日本の地方を巡って買い付けた商品が販売されています。


▲余白の多い店内がキリッとした印象のNALATA NALATA。

私の出身地である松本で活躍されている三谷龍二さんの作品や柳宗理のカトラリーといった有名な品々もありますが、知識の浅い私にとっては初めて出会う作家さんの商品も置かれていました。NYで、素敵な日本の作家さんや窯元さんを知ることができるなんて、思いもよりませんでした。


▲Simplicityの器は独特の色合いとフォルムが美しい。

 

アーティスト、ロッタ・ヤンスドッターさんに会いに

ブルックリンといえば、私にとってすぐに思い出すことのできる人が一人いました。スウェーデン出身のアーティスト、ロッタ・ヤンスドッターさんです。

遡ること約20年前、植物からインスピレーションを得たというロッタさんのテキスタイルやハンドライティングに夢中になり、食い入るように雑誌や本を読んでいた私。サンフランシスコからブルックリンに移り住んだロッタさんのキッチンが載ったページを、今でも思い出すことができるほどです。

スウェーデンの小さな島で生まれ育ち、サンフランシスコ、ブルックリン、そして現在はニュージャージーに住んでいるというロッタさんは、手を使ってデザインを考え、まさに手仕事で人生や生活をつくってきた方です。


▲ロッタ・ヤンスドッターさん。

1996年に「Lotta Jansdotter」というブランドを立ち上げ、シルクスクリーンで商品をつくり販売してきたロッタさん。数年前、脳の近くに腫瘍ができて手術した影響で左耳が聞こえなくなってしまったのだそう。以後、より静かで暮らしやすい場所を求めて、ニュージャージーに移ったと言います。


▲ロッタさんと待ち合わせたNYのカフェ、High Street on Hudson。


▲ロッタさんのメモノート。アイデアから今日の予定まで、何でもかんでもこのノートに書いているのだそう。普段からこの文字を書いていることに感動!

「たくさんアイデアがあるのよ!」。そう話してくれたロッタさんですが、来年からまたさらに精力的に活動する様子。どんな作品が見られるのか、とっても楽しみ!


▲ロッタさんがよく買いだめをするというシナモンロール屋さん。


▲シナモンロールだけでなく、カルダモンロールというパンまで!これが最高に美味しかった!


▲ロッタさんからいただいた2020年のリネンカレンダー。可愛い!

 

手仕事で人生や生活をメイクする人たち

ロッタさんがある本に取り上げられているという話を伺いました。その本のタイトルは『Making a Life』。「どうして私たちは手を使って何かをつくるのだろう」「どうして美しいものをつくるのだろう」そんな問いを胸に、著者のメラニー・ファリックさんが、キルト作家や陶芸家、靴職人など、手を使って生活や人生を作っている人に取材したものを1冊にまとめた本です。

NYの老舗書店、STRAND BOOK STOREでの出版記念イベントがあり、ロッタさんもこのイベントに登壇するということで行ってきました!


▲独立系の老舗書店として有名なSTRAND BOOK STORE。

今回登壇したのは、この本に掲載された4名の手仕事をしている方。そのうちの一人がロッタさんです。スウェーデン出身のロッタさんの他には、日本出身の靴職人、ドイツ出身の編み物作家、キューバ出身のアーティストです。それぞれ、生い立ちやどうして今手を使って何かを生み出しているのか、ということを話してくれました。

イベントで本と一緒に配布されたのは、紐!何をするのかと思ったら、「参加してくれている皆さんはいつでも手を動かしていたい方々でしょうから、話を聞きながらこの紐で何かつくってくださいね。」って。周りの方はネックレスやタペストリーのようなものをつくっていらっしゃいました。


▲『Making a Life』とイベント会場で配られた紐とワッペン。


▲『Making a Life』には、ロッタさんも生い立ちから作品まで取り上げられている。

このイベントの中で一番印象に残ったのは、何かをつくる理由は「私が私だと感じられるために」という著者のメラニー・ファリックさんの言葉でした。何かをつくることで、誰かと繋がる。考えや感情を表現する。自信を得る。精神を元気にする。それは、人間が人間らしくいられる、とっても健全なことなのだろうと感じました。

 

クリエイティビティの宿るところ

多くのスモールビジネスが成り立つブルックリンには、たくさんの手仕事が存在しました。アートやデザインを始めとして、いやそれだけに限らず、手を使って何かをつくる人たちが。

マンハッタンを抜け出したアーティストたちが自分を表現することによって、いつのまにか耕されたブルックリンという土地。その地域性があったからこそ、マンハッタンの都会的で洗練されたベクトルとは違う、人の手の温もりを感じる仕事が多く見られるようになったのでしょうか。

 

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