池田みのりさん(後編)|自分なりの好みで楽しんでほしい! アレンジの幅が広いのが、連続模様の魅力

池田みのりさん(後編)|自分なりの好みで楽しんでほしい! アレンジの幅が広いのが、連続模様の魅力

『連続模様で楽しむ かんたん刺しゅう』の著者、池田みのりさんのアトリエインタビュー。前編では刺繍を始めたきっかけや刺繍メーカーでも企画開発のお仕事について伺いました。後編では、カウント刺繍の魅力や著書制作時のエピソードについてのお話です。

撮影:奥 陽子 取材・文:酒井絢子

「今の時代は仕事や子育てなどで忙しい女性が多いので、そういう方でもできる刺繍を提案したくて」と、著書本『連続模様で楽しむ かんたん刺しゅう』のテーマを話してくれた池田さん。忙しい人には数ある刺繍の中でもカウントステッチが特におすすめで、アレンジもしやすく初心者でも楽しめるといいます。

 

まずは刺繍をする楽しみを知ってもらいたい

『連続模様で楽しむ かんたん刺しゅう』のステッチは9種類。シンプルなステッチで、草花や木々、幾何学などの連続模様図案を紹介しています。池田さんが「じっくり図案とにらめっこしたりするようなものではなく、縫製も難しいものではなく、とにかく刺す楽しみを知ってもらう本にしたかった」と話す通り、初心者の方にもわかりやすい内容です。


▲数えきれないほどの試作の数々。中には『連続模様で楽しむ かんたん刺しゅう』の図案で掲載しきれなかった色違いのサンプルも。

図案はひとつのモチーフ単位で見ると、小ぶりなものばかり。「時間をかけないで仕上げられるものというところもポイントなので、わりと小さめでかわいく、というところを意識してやっていますね。大ぶりだと図案が複雑になってしまいますし、初心者の方に挫折をして欲しくない、という気持ちもあります」

暮らしの合間の10分や20分を使って、パッと始められてすぐに手を止められるのもカウントステッチの魅力のひとつ。仕事や子育てに追われながらも、何かをつくりたいというささやかな意欲がある人にもうってつけです。


▲2018年10月、阪急うめだ本店で出版記念の展示をした際のパネル。リネンの上に接着剤で作品を貼りつけた。

作品はサンプラーがほとんどで、くるみボタンやがま口、ピンクッションやティッシュケースがアクセントになっています。仕立てていないサンプラーが多いのは、できる限り図案の数を掲載し、つくる人の縫製の自由度を高めるためだそう。

 

デザインのヒントは身近なものから


▲本に関連して発売された、池田さんデザインの「【コスモCOSMO】刺しゅうキット カウントステッチシリーズ」。六角形のものはフラットなブローチ。

モチーフとなっているのは、草花や幾何学模様。趣味の山歩きで出会う植物もアイデアの源です。「方眼用紙を持ち歩き、タイルとか広告の端にある幾何学模様とかを見て気になったらメモしたり。通勤中も目に入る植物がモチーフにならないかな、と常に見ていますね。山歩きで見つけて拾ってきた植物も、枝の分かれ方やバランスをじっくり観察したり」

いざデスクに向かったら、アイデアは布にペンで直接書いてしまうんだとか。「織り目が見えてわかりやすいので、試作も始めやすいです」


▲刺繍キットの手描き原稿。編集者やデザイナーにもカウントステッチがわかりやすくなるよう、ブルーのマス目だけ印刷した紙を自作し、その上に描き入れた。

 

ちょこっと刺してもかわいく見える、連続模様の面白さ

草花のほか、直線や円をベースにした幾何学的な模様も魅力的です。「昔から単純なものの繰り返しみたいなものがすごく好きで。思い返してみれば5歳くらいの頃、手芸店のプリント布を眺めるのが大好きで、品揃えを覚えるくらい見ていました。一生懸命選んで少しずつ母に買ってもらっていましたね。スティック状に丸めた小さなカットクロスで、ドットや小花柄、チェックなどの愛らしい柄の数々は今思い出しても心踊ります」


▲池田さん所蔵のカウントステッチの書籍。右は、池田さんが企画とデザイン・制作を担当した本『地刺しの連続模様』(啓佑社)。


▲2012年の『季刊サルビア 特集:クロスステッチでつくるブローチ』(ea)。

池田さんの好みの模様でありながら、読者の方にもわかりやすい、繰り返しの模様。けれども、あえて繰り返さずに柄をひとつだけ刺繍してもかわいく見えるものばかりです。「ボーダー状に連続で刺してもいいし、ずらして刺してもいいし、ワンポイントで刺してもいいんです。特に単純な柄だとアレンジでかなり雰囲気が変わりますよ」

 

つくり手の色選びによって表情も多彩に

本には、つくり手になる人にできる限り創造性をもたせたいという池田さんの思いが込められた、色、布、柄についてのアレンジをすすめるコラムも掲載されています。


▲表紙はかわいい図案がたくさんつまっていることを表現したくてサンプラーをふんだんに並べたものに。

本を制作するにあたり、いちばん試行錯誤したのは色選びだそう。「決められたテーマに合わせつつ自分で納得のいく色合いを考えるのが難しかったですね。結果的に今まで自分に無かった配色ができるようになって、とても勉強になりました」

ただ、刺繍糸は色数が豊富だからこそ、つくる人には色を選ぶ醍醐味もあると池田さん。「SNSなどで、読者の方が色変えをしてつくったものをアップされているのを見ると、驚くほどの魅力的な色合いのものもあったりして。楽しんでもらえているようで、本当によかったなと思います」

 

さまざまな方面から刺繍の魅力を伝えていきたい

池田さんは現在、民藝刺し子作家・近藤陽絽子さんの元で刺し子を習っています。近藤さんは、伝統的技法を継承しながら独自の応用形を生み出している作家です。「きちんと教えてくださる先生からしっかり学びたいと思って、秋田まで通っています。技法を覚えてから崩していくのは自由だけれど、まずは本当の手しごとを直接目にして教わっておきたいんです」


▲花ふきんの刺し子。池田さんが現在通っている近藤陽絽子さんの教室で制作した課題作品。

今後は、特に刺繍には興味があるけれどなかなか始める機会が無い方に向け、カウントステッチに限らず様々な角度から刺繍の魅力を紹介していきたいといいます。「現代社会の中で、刺繍というスローな趣味を持つことはこれからますます大切になってくると思います。ゆっくりとひとつのことに向き合うのは、競争原理とは違う価値を感じて生きるということに繋がるのではないでしょうか」

初心者の人のささやかな意欲も汲み取りながら、広い視野で刺繍をディレクションしていく池田さん。制作や刺繍メーカーでの仕事を通して、刺繍の新しい魅力を多くの人に広めていってくれるはずです。

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