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色のハーモニーで遊びながら、盛夏をしのぐ

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撮影:加藤新作 文:太田明子

はつ夏に 金魚の赤を点じれば 翡翠の色に水は輝く(俵 万智)

数えきれないほど風物詩のある夏ですが、やはり水を感じたい季節ですよね。翡翠の色に輝く水とは、水中の植物が繁殖してできるうっすらと緑色を帯びた水と解釈できます。そこに赤い金魚がすいすい泳ぐさまは、想像しただけでなんとも涼しげ。元気がでない朝や、ストレスから解放されたい夜などは、水を包み込むような優雅さを眺めているだけで癒されます。

そもそも金魚は、室町時代に中国から渡来したのがはじまり。当時は高価だったため、一部の富裕層や貴族の間で話題になり育てられていました。江戸時代には豪商たちが金魚を眺めることで暑気払いをし、明治になると花柳界に広まります。一般庶民に知れ渡り人気がでるのは大正期に入ってから。高度経済成長の頃から金魚売りが町を歩くようになり、一時は“泳ぐ宝石”とまでいわれるほどでした。

金魚の先祖は赤いフナ。そこから赤くて細身の流線形、和金が生まれます。さらに紅白模様にひらひらの尾が琉金、そして出目金へと展開していきました。これらは現在でも金魚すくいに欠かせない、いわば金魚界の三大スターです。

赤い色にも鮮やかな赤、優しい朱色、艶やかなオレンジ色まで濃淡もあり、実にさまざま。ほかにも手を加えて黒、黄、白などの色素細胞を組み合わせたり、ひれの形、顔の飾りなどタイプの違うさまざまな金魚がつくられてきました。今やアートの域に達しているものもあるほど。金魚は野生に暮らして進化したものでなく、人の手によって守られ、進化を遂げてきた造形美の世界といえるかもしれません。

次は、あなたの指先から、好きな色の金魚を誕生させてみませんか?

カジタミキさんの『立体でつくる、綺麗な切り絵と小物たち』では、切り絵細工の金魚の作り方が紹介されています。巻末の図案を見ながら再現してみましょう。あまり器用でない人も、どうぞ気後れしないで。まったく同じでなくても、できる範囲で大まかに切っていくデフォルメでも十分です。ひとつのことに夢中になっているときは、意外に暑さを忘れているものですよ。

冒頭の俵 万智さんの歌は『風が笑えば』(中央公論新社)より。

写真は『立体でつくる、綺麗な切り絵と小物たち』より。

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