HUTTE.加藤絵利子さん(前編)|シンプルだからこそみなぎる瑞々しさ! 生命力あふれる植物の姿をそのまま手彫りのスタンプに

HUTTE.加藤絵利子さん(前編)|シンプルだからこそみなぎる瑞々しさ! 生命力あふれる植物の姿をそのまま手彫りのスタンプに

繊細な線画で描いた手彫りスタンプで、植物の息吹を生き生きと表現している「HUTTE.(ヒュッテ)」の加藤絵利子さん。待望の新刊『手彫りスタンプで、アレンジをたのしむ 植物図鑑 図案集』の発売に合わせてインタビューを行いました。掲載作品についての詳しい解説や制作秘話も交えながら、前編・後編の全2回でお届けします。

撮影:寺岡みゆき 取材・文:酒井絢子

HUTTE.のスタンプの魅力はなんといっても、自然の空気感をそのまま切り取ったような、生命力あふれる植物の表現。シンプルな色づかいで、芸術作品ともいえるクオリティに徹していながらも、どことなく身近な存在に感じられる作品たちは、ひときわ異彩を放っています。

「植物って不思議できれいで、見れば見るほど作品にしたくなってくる」という加藤さん。

「スタンプとして仕上げるには産毛や細かな葉脈などすべてを描きこむことはできず、削る部分もあったりしますが、なるべくそのままの姿を写し取って、スタンプとして生まれ変わらせてあげたいなと常に思っています」

植物のありのままの姿のモチーフとして、根っこまで描いた絵が多いのも特徴です。「根っこは植物の源。大地からすくっと出てくるものだから」

そんなHUTTE.の作品が、美しく一つの写真集のようにまとめられたのが、新刊『植物図鑑 図案集』。加藤さんは、出版することが決まった時点から、フランスの蚤の市のようなイメージにしようと考えていたと言います。

 

昔も今も、人を魅了する植物の美しい姿


▲ハーブに囲まれた、スタンプ本体。根つきスズランは加藤さんもとてもお気に入りだという作品。「あんな可憐な花姿なのに、根っこのモジャモジャは描くのも彫るのも大変なほど絡み合っているんですよ。根っこは途中で彫り間違えてもあまり気にせず思い切りよく彫ってみてほしいです」

「古いポストカードや刺繍が施された布類、プレートなどに描かれた植物、アンティークの刺繍の専門紙などから、たくさんのヒントをもらいました。本の全体は蚤の市のイメージですが、あくまでも図案集なので、手にとってくださった方にも彫ってみようと思ってもらえるようなデザインになるように考えてつくっています」

ふだんの制作では名刺サイズに入るくらいの大きさの作品が多い加藤さんですが、この本ではあえてハガキサイズにまで拡大して制作したものも。また、線を太めにするなど、実際につくる人への配慮が詰まっています。

 

生命力を暮らしに取り込む、手彫りのスタンプ

『植物図鑑 図案集』は鬱蒼としたハーブとともに作品がスタイリングされた表紙が印象的ですが、中の写真もみな麗しく、ページをめくるだけでもうっとりしてしまいます。ドライハーブと一緒に、無機質なコンクリートに無造作に置かれた作品も静謐な美しさ。

実は、撮影は2回の時期に分けて行われ、前半では元気な状態のハーブと作品とをスタイリング、後半では同じハーブをドライにしてからスタイリングと、印象を変えるための工夫が凝らされているそう。


▲ポストカードは、洋書の表紙をイメージしたという、スタンプの組み合わせ。「複数のスタンプを組み合わせるときは、メインを決めたら他の植物は控えめなデザインを選び、モチーフどうしがケンカしないように。合わせる文字は書体を変えることでメリハリが生まれます」

「ハーブや観葉植物が多くの人の生活に寄り添っているように、植物の姿を写し取ったスタンプも、アレンジを楽しみながら飾ったり、贈り物に添えたり。この本を手にとってくださった方には、まずはつくることを暮らしの一部として楽しんでもらえたらいいなと思います」

 

単色で表現する華やかさ、瑞々しさ

多くのインクを使わず、単色でスタンプを表現しているのもHUTTE.の大きな特徴です。消しゴムハンコは大人気のハンドクラフトで、インクも多様な種類や色が販売されていますが、『植物図鑑 図案集』では黒と青の2色しか使用していません。

小学生のときから植物を描くのが好きで鉛筆画が一番好きだったという加藤さんは、「スケッチ画はとても気に入るのに、絵の具などで色を重ねていくたびに心が沈んでいくという、真逆の感覚があった」と言います。

スタンプを制作するようになってもその感覚は消えることなく、色インクでは自分の表現したい世界が見えてこないということに気がついたそう。「ならば黒インク一色でスケッチ画の世界観を表現すればよいのでは?と、たどり着いたのがモノクロの世界。たとえ黒一色でも、植物たちが華やぐよう描いています」


▲野いちごをモチーフにしたスタンプをおしたブックカバー。一つのスタンプをテキスタイル風にするコツは、「図柄が近すぎず離れすぎずになるように、間を大切にすることと、おしながら全体のバランスを確認することかな」と加藤さん。

 

紙の風合いも大切な表現の一部

スタンプが押された紙は、風合いや手触りもさまざま。古道具屋さんで購入したラッピングペーパーや、古い洋書の紙、アンティークの便箋セットなど、素材選びも作品の洗練につながります。

「たとえば、掲載のブックカバーに使用している紙は、実は裏側が耐水性のあるフード用のペーパーなんです。表側はざらっとした質感なのですが、スタンプをおしたときにちょっとした擦れ具合が雰囲気を出してくれたりも」

『植物図鑑 図案集』には、紙を趣のあるセピア色に染めることができるコーヒー染めの方法も掲載されています。古書の1ページを切り取ったような雰囲気を醸し出すことができる、手軽な手法です。


▲マーガレットのスタンプをブレードレース風の連続模様になるようにアレンジしたレターペーパー。図案がつながる部分は、真上からではなく横から覗いて位置を確認しながらおすとうまくいくのだそう。

後編では、手彫りスタンプのさらなるアレンジ方法や、紙もの以外にも広がるバリエーションについてのお話をお伝えします。

 

おすすめコラム