加藤容子さん(前編)|お裁縫をやってみたい人の背中をそっと押してあげたい。『お裁縫の基礎』は、そんな思いでつくった本です。

加藤容子さん(前編)|お裁縫をやってみたい人の背中をそっと押してあげたい。『お裁縫の基礎』は、そんな思いでつくった本です。

『はじめてでもきれいに縫える お裁縫の基礎』を上梓した縫製家の加藤容子さん。手芸誌に掲載する作品を縫ったりワークショップを開催したり、多方面で活躍しています。とにかく縫い物が好きという加藤さんに、洋裁の楽しさや魅力、また著書への思いについてお話を伺いました。前編・後編にわたってお届けします。

撮影:奥 陽子  取材・文:庄司靖子  協力:JUKI販売株式会社

こんな本がほしかった!縫い物をするとき、手元に置いておきたい本が誕生しました。それが『はじめてでもきれいに縫える お裁縫の基礎』です。

本書には、今さら聞けない手縫いの基本的なことから、素材の種類、道具の解説、作業の手順など、お裁縫に関するありとあらゆる情報がぎっしり。随所に著者である加藤容子さんのこだわりが感じられます。

 

ミシンをかけるのがとにかく大好き!

お話を伺うために訪れたのは、ミシンメーカー、JUKIさんのショールーム。「ここですよ」と通された部屋には、数台のミシンが鎮座しています。大きな窓からたっぷりと陽光が射し込む明るい空間は、ソーイングをするのにまさに理想的!ここで加藤さんは定期的に洋裁のワークショップを開催しているのです。


▲最新の家庭用ミシンが並んだJUKIさんのショールーム。たくさんのミシンが必要な場合は、もっと大きな部屋もあるそう。

取材当日は、加藤さんが普段使っている愛用品をお借りして、ショールームの片隅にアトリエコーナーを再現しました。


▲加藤さんからお借りした有孔ボードやボビン糸、トルソーなどを並べて。

まず見せてもらったのは、加藤さんが愛用しているミシン。家庭用ミシンと思えないほどワークスペース(ミシンの名称では「ふところ」)が大きく、素人目にも使いやすいだろうということがわかります。


▲使い始めて3年経つというJUKIの家庭用ミシン。

縫い物の工程でも特にミシンで縫うことが好きという加藤さん。「これは手で縫おう、と決めているのに、気がつくとミシンの前に座っていたりして、ハッとすることがある」のだとか。また、「ミシンをかけているとき、気がついたら笑っていることがあるんですよ。あ、またニヤついちゃった、と我に返ったりして。周りの人が見たら怪しいですよね」と笑います。


▲「縫い手が作業しやすいようにいろいろな機能がついていますが、このミシンはボタンホールがとてもきれいにできるので、重宝しています」

ミシンのモニターを頼まれることも、加藤さんにとってはありがたい機会なのだそう。「使用した感想だけでなく、改善してほしいところなど、意見や希望を伝えるチャンスがあるのは幸せなことです。実際に縫う人の意見を取り入れたと思われる新しい機能がついていると、感動しますね」


▲ハートのモチーフは、飾り縫いができるミシンのモニターを引き受けたときに縫ったもの。「刺繍が得意ではないので、この機能はとても嬉しいですね」

 

ミシン糸の収納には、有孔ボードが大活躍

加藤さんのアトリエには家庭用ミシン、職業用ミシン、ロックミシンが常設してあり、そのわきに有孔ボードを利用してミシン糸を並べているそう。「見えるところに並べておけば生地と合う色をすぐ探すことができて便利なんです」


▲有孔ボードにミシン糸とボビンを並べ、色を探しやすいよう配置。


▲ボビンキャッチャーを利用してミシン糸とボビンをセットに。

 

副資材は「中身が見えることが大事」

ボタンやリボン、端切れなどの副資材は透明ガラスなどの容器に入れて、見せる収納に。「瓶以外にも、保存用の透明袋を利用しています。とにかく中身が見えることが大事」とのこと。作業中に目的のものをすぐに取り出せるのは大切なポイントです。


▲加藤さんが大好きというリバティの布。「リバティはたとえ余りでも捨てられなくて。今は端切れを使って人形の洋服を縫ったりもしています」


▲使用頻度の高い定規やチャコペンシル、はさみなどもすぐに使えるようにペン立てに入れて。ピンクの柄のはさみは蝶々がモチーフになっていてお気に入り。


▲ボタンやウッドビーズなど細かい副資材を入れるのに利用しているのはスパイスラック。中身も見えてさっと出せるのでとても便利。

 

悩んだときに解決の糸口が見つかる本

著書の中で加藤さんは、縫い物初心者が知りたいと思っていることに丁寧に答えています。それは布の名称や素材の特徴から、地直しの方法、印つけ、正しいまち針の打ち方までさまざまです。

「自分では当たり前と思って使っている言葉や工程について編集の方から質問されることがあり、そこで初めて、これは説明しないといけないことなのだと気づくこともありました」


▲表紙のデザインで使われた素材の実物。「ブックデザイナーさんのアイディアで、お裁縫の基礎テクニックを1枚の布に施して表紙で見せることになりました」

本の構成が決まって、いざ制作が始まると、撮影するための素材の準備が思った以上に大変だったと振り返る加藤さん。確かに、本に掲載された写真を見ると、ひとつひとつの準備に膨大な時間が費やされたことが想像できます。でも、「お裁縫をやってみたいと思う人の背中をそっと押してあげられるような本にしたい」という思いから、写真で丁寧に見せることは実現させたかったと言います。

例えば、接着芯でどれだけ違いがでるのかという説明も、厚さの違う3種類の接着芯を貼った同じ形のバッグを用意。実際に写真で見せているので、その違いも一目瞭然です。用途に合わせて接着芯を選べば、作品の幅も広がるということがわかります。


▲接着芯の厚みの違いをわかりやすく説明した3つのバッグ。左から薄手、厚手、特厚の接着芯を貼ったもの。

「手芸に100%正解、というのはないと思うんです。完成までの工程はいろいろあります。だから、やり方はひとつじゃないんですよ、ということを伝えたいと思いました。ただ、そうはいっても一番スタンダードなやり方がわからない人もいますよね。そういう方のために基礎的なことは紹介しつつ、こうしなくてはならないという決めつけはしない、ということを意識して本をつくりました。また、自己流でやってきたけれど、これで本当にいいのかな、と迷っている人にも見ていただける本になればいいなと思っています」


▲著書ではボタンつけの方法も詳しく解説。四つ穴ボタンもつけ方はいくつかある。

外を歩いて草花を見るのも好きという加藤さんは、フィールドガイドブックなどの小さな本を持って出かけることが多いそう。「これは何の花だろう、と思ったとき、すぐに調べられるので」。その経験から、「お裁縫をやるとき、ミシンをかけるときに、この本をそばに置いてもらえたらいいな」と考えています。


▲『のばらの森のものがたり』はお気に入りの本。ページを開くと四つ葉のクローバーが。「本を持って外を歩くのが好きなので、散歩していて見つけたクローバーをはさんでそのままだったんですね」

後編では、加藤さんのお仕事の内容や洋服づくりについてお話を伺います。

 

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