布花コサージュ(後編)|布花づくりの魅力とは? アンティークコサージュ復元のお話。講師:伊藤貴之さん(turbo)

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布花コサージュ(後編)|布花づくりの魅力とは? アンティークコサージュ復元のお話。講師:伊藤貴之さん(turbo)

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前編では、ブラックブリオニーづくりの体験レポートをご紹介しました。後編では、コサージュ作家の伊藤貴之さんが、コサージュをつくり始めることになったきっかけや、アンティークコサージュの復元についてお話しします。

撮影:田辺エリ 取材・文:つくりら編集部 協力:パセリセージ

グラフィックデザイナーだった伊藤貴之さんが、布花をつくり始める端緒となったのは、オランダ・アムステルダムで買った、紫のバラのコサージュでした。


▲「パセリセージ」の1DAYレッスン用に伊藤さんがつくった作品見本。「数時間かかるものが多く、初めてつくる方には少々難しいかと思いましたが、みなさん一生懸命つくってくれました」

 

欲しかったのは、デニムに合うコサージュ

日本に帰国後、伊藤さんは東京都内の花屋さんでアルバイトを始めます。

「アムステルダムで買ってきたコサージュをデニムにつけていると、何人もの人から、売ってほしいと言われたんです。当時はドレッシーなコサージュが多かったので、こんなふうにつけているのが珍しかったんでしょう」

もっとカジュアルなコサージュがあってもいいんじゃないか――そう思い、つくってくれる人を探し始めます。けれども、少量でつくってくれる会社も人も見つかりませんでした。

試しに自分でつくってみようと思い立った伊藤さんは、染料を販売する店に出向きます。そこで、幸運にもコサージュづくりの経験がある店員さんに出会い、つくり方の基本を教わることができました。布花づくりのイロハのイを習うと、あとはもう独学。「ここで、生の花に触れていた花屋さんのアルバイトが役に立ちました」

ずっと絵を描くことが好きだった伊藤さんは、いつか「紙」が違うものに代わるのだろうなとぼんやりと思っていたと言います。

「布花でコサージュをつくることは、自分にとっては絵を描くことに近い。白い布に、色の組み合わせ。布花は、小さなキャンバスなんです」

 

ベーシックなものができないと、アバンギャルドなものはできない

布花づくりに取り組むようになってから、伊藤さんが徹底的に行ったのは、自然観察。

「生の花を開いて、おしべまでチェックします。外からは見えませんが、ものづくりで内側に手を抜くのがすごくいやなので」


▲球根の根まで再現した作品。左はヒヤシンス、右はチューリップ。「どちらも染料で染めた後、柿渋を加え、黒ずんだ表情にしています」

「木工や建築など、自分のまわりのクリエイティブに携わる人々は、みんなベースのところを勉強していた。一流の人はみな基礎を学んでいるのだと知りました」

絵画にデッサンが欠かせないように、布花における自然観察は、ものづくりの骨格を決めるうえでとても大切なことだと学んだのです。

 

アンティークコサージュの復元という“お題”

誰かにつくってもらおうと思ったコサージュなのに、期せずして自らつくることになってしまった。その伊藤さんに「コサージュ作家」としての道へ、さらに背中を押してくれたのが、「パセリセージ」の三上星美さんでした。サザビーのブランドプロデューサーとして、ファッションからライフスタイルまで幅広いプロデュース経験を持つ三上さんは相当の目利き。

その三上さんから出されたのは、「アンティークコサージュの復元」というお題でした。

どうしたらこの風合いが出せるのか、どんな素材を使ったらいいのか。伊藤さんは徹底的に研究したと言います。

「お題となったアンティークコサージュは、フランスやドイツから集めた、私の古いお花のコレクションです。とても儚気(はかなげ)で、今の時代には材料も手に入らないものが多く、時代を経過した色合いや素材感がある1点物ばかり」。そう説明してくれたのは、三上さん。

その難しいお題を、伊藤さんが工夫を凝らし、次々とクリアしていく様を見て、三上さんもついつい、難易度の高い復元を依頼してしまうそう。「アンティークを再現する楽しさは『パセリセージ』の伊藤さんのレッスンでしかできないことだと思っています」


▲右上がアンティークのコサージュ。花はマーガレット。左は伊藤さんが復元した作品。こちらの作品は、「パセリセージ」のワークショップでも教えたそう。

「三上さんから次々と出される“お題”は、どれだけ自分が応えていけるかを試す貴重な機会。ここで意識が変わりました。

その花を見て、もしこれがつくり立てのコサージュだったら、こうじゃないかな? と想像を加え、オリジナルに近い素材を探したり、違うもので表現したり、と、アンティークコサージュには学ぶべきことはたくさんあります。最終的にそれに近いお花が完成したときは、とても嬉しくなります。どうやってつくられているのか? という技術の勉強にもなりますし」

 

教えるという時間の大切さ

三上さんと出会い、「パセリセージ」で布花を教えるようになった伊藤さん。その後、いくつかの教室からも声がかかり、現在、那須のショップ「TURBO」を運営するかたわら、布花の講師としても忙しい毎日を送っています。


▲うす絹と呼ばれるシルクでつくった花。「うす絹はとても生地が薄く、光沢があるので、上品なお花をつくるのに向いています。染めの際は、花びらへの色出しが難しいですね。中心部分のおしべとめしべは、現在の素材で代用し、オリジナルに近い雰囲気で仕上げました」

「自分がつくっている花で、喜んでくれる人がいる。『できてよかった』という生徒さんの顔をみると、ああ、やっていてよかったなと思います」

人に教えることで、もう一度つくる。そうすることでつくり方を整理できるのは、自分にとってもありがたいこと。そう謙虚に語る伊藤さんの言葉から、ものづくりに対する真摯な姿勢が伝わってきました。

「ワークショップで過ごす数時間は、非日常。時間を忘れてつくれるものなんて、なかなかないですよね」

今年11月には、すべての始まりとなった紫のバラのコサージュを買った、因縁の地、アムステルダムで、初めてアーティストのイベントに参加するそう。


▲アイリスの花。素材はビロード。「この花にも染料で染めた後に柿渋を加え、時間が経過した的な味を出しています。ビロードは染料で染めた後、少々、色抜けがあり、色味が薄くなることが多いので、染めの際の濃度には気をつけます」

 

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