カルトナージュ|厚紙に紙や布を貼って仕上げる、ヨーロッパで生まれた美しい伝統工芸。講師:松岡育子さん(haco*rica)

カルトナージュ|厚紙に紙や布を貼って仕上げる、ヨーロッパで生まれた美しい伝統工芸。講師:松岡育子さん(haco*rica)

カルトナージュは、厚紙(カルトン)で組み立てた箱などに、紙や布を貼って仕上げるクラフトで、19世紀にフランス各地で広がったと言われています。日本では布を貼ることが多いので、布箱と呼ばれることも。今回は、松岡育子さんの「haco*rica」(ハコリカ)教室におじゃまさせていただきました。

撮影:田辺エリ 取材・文:つくりら編集部

松岡さんがカルトナージュに出会ったのは、ベルギーのブリュッセルに滞在していた頃のこと。郊外の手芸屋さんを訪れた際、布貼りの小さな裁縫箱を見つけました。「その箱はキットになっていて、手芸屋さんのワークショップでつくれると知り、さっそく参加しました。つくっている工程も楽しいし、でき上がったときもうれしくって」

 

1枚の紙からオンリーワンの箱が生まれる

「完成したときの達成感を何度も味わいたくて、日本へ帰国するまでの一年間、暇があったら布を買ってきて、自ら製図をして、箱づくりを続けていました」

帰国後、より多くのテクニックを学びたいと、地元の市川市でカルトナージュの教室に通い、認定講師の資格を取得。現在は、認定講師としての教室を続けながら、松岡さんがデザインしたオリジナルレシピを使うhaco*ricaとしての教室もスタートさせました。


▲千葉県・新浦安の「スタジオブーケ」さんで始まったhaco*rica教室。事前につくりたい作品を生徒さんたちに聞き、各材料はカット済みで用意。きめ細かな事前準備のおかげで、レッスンがスムーズに進む。

 

何げない箱がいちばん。だからこそ、布が生きる

haco*rica教室では、ベーシックコースとアドバンスコースを用意し、つくり続けることが励みになるディプロマレッスンというスタイルに。コースを修了した人は、松岡さんのレシピを自由に使って教えられるという魅力的な内容です。


▲松岡さんデザインの見本作品。ツールスタンド(左上)、ブロックメモボックス(左下)、セレモニーケース(右下)がベーシックコース、右上の取っ手つきの道具箱はアドバンスコースの作品。


▲ベーシックコースの課題作品のスナップトレイ(上)と名刺入れ(下)。どちらもちょっとしたギフトに喜ばれるそう。

ベーシックコースは、スタンダードなもの、サイズを変えてもつくれるもので、アイテムとデザインを考えたといいます。
「用途がはっきりしている箱よりも、何でも入れられる箱が好きです。昔でいう文箱のような」

どんなものでも受け入れてくれる、懐の深い箱。余計なものを削ぎ落としたシンプルな箱。それが松岡さんの求めるカルトナージュの姿のよう。「箱職人になりたいんです」。穏やかな松岡さんの言葉の語気が、ほんの一瞬、強くなったように感じました。

「使う布によって、作品の印象はずいぶん変わります」。シンプルな箱に個性を与えるのが「布」というわけですね。
この「布を選ぶ」というプロセスこそ、カルトナージュの真骨頂。すべての材料はカットして用意するけれど、布だけはその場で選んでもらいたい――布に対する松岡さんのこだわりが、教室のスタイルに表れています。

「生地が決まったら、カルトナージュは半分できたも同然です」(笑)

松岡さんが選ぶ布は、主張しすぎず、インテリアのじゃまをしない中間色。暮らしにそっと寄り添える、静かで、やさしい引き立て役が並べられています。
「大きな柄の布はよりシックに、小さな柄のものは、少しだけ可愛さを感じられるものを選ぶようにしています」

ロンドン、ウィーン、ブリュッセルと、10年近く欧州で暮らした松岡さんにとって、質量ともに多彩なヨーロッパの布に触れてきた経験が、布選びの審美眼を養い、haco*ricaならではの洗練されたセレクションを生み出しているのかもしれません。


▲生地だけは、作品のイメージに合わせて当日選べるスタイルに。リバティプリントからインテリア用の幅広リネンまで、上品で落ち着いた柄が多い。

 

工作感覚で楽しめて、布のやわらかさも味わえる

ベーシックコースでつくれる作品のなかから、私が選んだのは「セレモニーケース」。祝いの席で使えるものがずっと欲しかったので、即決。生地は松岡さんの見本作品と同じものを選びました。

まずは、1mmの厚紙に両面テープをつけて綿(わた)を貼り、厚紙に沿って綿を切り揃えます。

綿を貼った厚紙を本体用生地の裏側にのせます。生地の四隅を三角にカットしてから、厚紙の側面を生地でくるみます。ボンドを塗るのは必ず厚紙のほうに。

つなぎの部分にボンドを塗り、製本クロスを貼ります。私が選んだのはチャコールグレイ。厚紙の際(きわ)をヘラでしっかり押さえると仕上がりがきれいになるそう。

内側に使う生地を裁ちます。大柄は模様の出方を考えながらはさみを入れて。

内側に使うケント紙にボンドを塗ります。ケント紙は厚紙に比べると薄いので、ボンドを塗ったらヨレヨレになりそう・・・。ピシっときれいに貼れるかドキドキです。「ケント紙にボンドを塗るときは、まんべんなく、たまりがないよう、塗りもれがないように。布の糸やハケの毛などが入らないように注意しましょう」(松岡さん)

たるみやシワがでないよう、手でしっかり生地を伸ばします。

扇形ポケットをつける部分ののり代を切り落とします。

こちらが扇形ポケット。製本クロスを貼ったら、のり代のカーブ部分に切り込みを入れます。

扇形ポケットの上にふた側のケント紙をのせ、扇形ポケットののり代でくるみます。

同様に長方形のポケットもつくって、本体側のケント紙に貼り合わせます。

タッセルやチャームをつけるタブをつくります。リボンにDカンを通してから水貼りテープでつなぎ部分の製本クロスに固定します。

内側を本体に貼りつけて、でき上がりです。

飾り用のタッセルは、アクセントになるピンクを選びました。

手に持った感じもちょうどよい大きさです。

こんなふうにポケットにはさめるのですね。

 

つくり手に引き継がれていく箱

今回のレッスンに参加した方々はほとんどがアドバンスコース。みなさん、まだまだ制作中です。

取っ手用の金具をつける工程は、ちょっと難しそう。

こちらの方は、使いたい生地を持ち込んでの制作。刺繍入りの生地で特別感が出ていますね。

一緒にレッスンを受けた方のなかに、母娘で参加されていた方がいらっしゃいました。お母様は還暦を過ぎ、現在60代後半。娘さんと一緒にこの教室に通って「生きがいを見つけた」のだそう。近々、家業で使っていた作業場のスペースを改装して、地元でサロンを開くのだと話してくれました。娘さんはプリザーブトフラワーを、お母様はカルトナージュを教えるとのことで、目下、松岡さんの教室に足しげく通い、猛特訓中。すでにアドバンスコースの作品もいくつも仕上げて、友人に差し上げるほどの腕前になっていらっしゃいました。

箱づくりにいそしむ多くの指先を見つめ、箱の魅力をたっぷり伺った今、セレモニーケースだけで終わってしまうのはなんとももったない気がしてきました。やっぱり箱をつくってみたい、そしてできればお気に入りの布で。どうやら私もhaco*ricaマジックにかかってしまったようです。